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第63話
立岡の家はいつも必要最低限の物しか置いていないような気がする。
「喧嘩しちゃったね。いいの?」
「いい。ああいう風に友人を否定されるのは腹が立つ」
「······俺が言うのもなんだけど、あいつの言ってることもあながち間違いじゃないよ。」
抑揚のない声でそう言った立岡は、俺をじっと見てそのまま動かない。
「俺、お前が思ってる程良い人間じゃないよ」
「······俺が知ってるお前は良い奴だ。それだけでいい。」
「それじゃあ足をすくわれるよ。」
「お前は敵じゃない。だからそうなったとしても別にいい。誰かが死ぬわけじゃないしな」
「······本当にそう?俺はそうは思わないよ。誰かが死ぬかもしれない。自殺っていう形でね」
立岡が段々と近づいてくる。そして首にかけられる両手。
「俺のせいで何人死んだと思う?俺は情報屋だ。俺が売った情報が、何人もの命を奪ってる。」
「······それで?」
「お前はそんな俺をどうにも思わない?いや、そんなわけがない。お前の母親も殺されたんだから。」
多分俺は、情報屋としての立岡には恨みなんて抱いていない。それどころか感謝をしているのに、同じ様に人を傷つけて生きている俺が、そんな理由で立岡を軽蔑するとでも思っているのだろうか。
「どうも思わない。俺はお前には感謝しかしてない。」
「はぁ?」
「お前は俺の力になってくれる。俺の為に動いてくれる。誰かが死んでいたとしても、それは結果論だ。」
「······ハハッ!だから俺はお前が好きなんだよね」
首にかけられていた手がそのまま動いて肩を抱かれる。
「本当、何で冴島と付き合っちゃうのかなぁ。」
「あいつも冷静になればちゃんと考えることが出来る」
「ぶはっ、そうやって年下扱いされてる冴島って最高。志乃と俺の間では、冴島は真面目で優秀で、3人の中では誰よりも頼りになるのにな」
「それはどちらかといえばお前だろ。本当は真面目なくせに、そうやってヘラヘラしてるからそう見られるだけだ。」
ポカン、と口を開いて固まった立岡は、突然真顔になって小さく首を傾げる。
「······分析力もあるんだねえ。俺、お前になら抱かれてもいいよ。イケメンだし」
「抱かねえよ」
「違うじゃん!それでもいいよって話じゃん!無駄にフラれた。心折れそう」
俺から離れるとソファに仰向けに倒れて、腕で目元を隠し暫くするとケラケラ笑い出す。その様子が面白くて、俺も小さく笑みを零した。
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