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第64話 冴島side

静かになった家は落ち着くにはちょうど良かった。 珈琲を飲んで、さっきのことを思い出す。 彩葉は何も知らないんだ。 立岡のせいで潰れた人を、そしてそのまま亡くなってしまった人を、俺は何人も見てきた。 彩葉は母親を殺されて亡くしている。 立岡は自分の手は汚してなくとも人を殺めている訳で、あの2人は背中合わせのような関係の筈だ。 今までは恋人ではなかったから何も言わなかった。けれど、恋人になった今なら、彩葉を傷つける要因を1つでも取り除いておきたくて躍起になる。 立岡は謂わばサイコパスだ。 他人の感情について考えることが出来ない。そして、だらしない性関係も特徴の一つで、もしかしたら彩葉はそういった部分で狙われているかもしれないから、無理矢理にでも止めておくべきだったかもしれない。 そんな時、携帯が鳴って着信を知らせる。 「ちっ、誰だよ」 画面を見れば志乃からで、「今すぐに来い」と呼び出しを受けた。つい最近まで彩葉の事を考えてか俺を呼ぶことはしなかったのに、もう遠慮がない。 「何?怪我でもした?」 「違う。」 「電話じゃ無理なの?」 「梓が会いたいって言ってる」 「······わかったよ。今から行く」 家を出て、とても自分の足で行く元気がなかったから、タクシーを拾って志乃の新しいマンションの近くで降りた。 「早いな」 「お前が今すぐって言ったんだろ。」 「それに疲れてる」 「······喧嘩した。お前の話も梓君の話も聞くから、俺の話も聞いて」 部屋にあげてもらって、リビングに行くと梓君が嬉しそうに笑って俺のそばまで寄ってくる。ああ、可愛いな。 「こんにちは」 「こんにちは冴島さん!それにお久しぶりです!」 「うん。この間怪我をしたって聞いたけど、大丈夫?」 「大丈夫!ほら、この通り!」 腕を広げてにこにこ笑う梓君。志乃がそんな梓君を抱きしめた。 「梓、珈琲いれてくれるか?」 「うん!待っててね」 「ありがとう」 椅子に座って梓君がキッチンに行ってから「で?」と話を切り出す。 「ここに俺を呼んだ理由は、梓君だけじゃないでしょ?」 「······頼みがある」 「うん、だと思った。何?」 「抗争が始まったら、その間は梓と一緒にいてほしい。」 真剣な志乃の顔。断ることは出来ないし、元から断る気は無いから躊躇うことなく頷いた。

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