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第65話

「もちろんその分の金は出す。いつどこで始まるかはわからない。その時になったら指示を出す。」 「わかった。あとは?」 「俺からはそれだけ。あとは梓が会いたいって言ってたからな。お前の話は?」 そのタイミングでコトっと珈琲が置かれる。顔を上げて梓君に「ありがとう」とお礼を言うと柔らかく笑った。 「······彩葉と喧嘩した」 「彩葉······神崎か。」 「そうだ!冴島さん神崎さんと一緒に住んでるんだよね!」 「そうだよ。因みに言うと付き合ってる」 そう言うと志乃は間抜けな顔をして、梓君も似たような表情で俺を凝視する。何その反応。すごく面白い。 「聞き間違いなら悪い。今付き合ってるって言ったか?」 「うん。それで昨日彩葉が仕事から帰ってきたんだけど、立岡も居てね。立岡は彩葉には悪影響でしかないって思って、あんまり仲良くして欲しくないって言ったんだよね」 「······そんなこと言ったのか」 志乃が呆れた声でそう言う。でも梓君は俺の言葉に納得してくれてるようでうんうんと頷いた。 「神崎はそういう事を言われるのを心底嫌うだろ。それは俺にだって予想できる。」 「え!?何で?だって立岡さんさ、怖い時あるよ。俺も苦手」 嫌そうな顔をして志乃を見る梓君。コロコロと表情が変わって面白い。 「······冴島は、立岡の事をどれだけ知ってる?あいつの家族について、何か知ってるか?」 けれど志乃は真面目な顔でいる。 梓君の事は今は気にも留めない。 「······知らない。」 「なら、尚更あいつを知った気になってそんなことを言うな。神崎に悪影響?本当にそれだけだと思うのか?」 「じゃあ、お前は何を知ってるんだ」 志乃の言葉にイラッとしてそう言葉を返す。梓君がオロオロとしているけど、構っていられない。 「立岡の事は、お前より遥かに知ってる。神崎の事もな。」 文句を言わせない、人の上に立つべくして立ったんだろうと思わせるその言葉。 何も言い返せなくて、気まずく視線を逸らすことしかできなかった。

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