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第66話 神崎side
「寝ないのか」
「あー······寝れないんだ。」
夜になって日付も変わった。それなのにベッドに入る素振りも見せず、酒を飲んでテレビを見ている立岡。
「寝れない?何で」
「不眠症でね。前までは薬を飲んでたんだけど、治りやしなかったから、もう飲むのも面倒なんだよね。」
「······聞いていいのかわかんねえけど、何か不安な事でもあるのか?」
あまり踏み込んでいけないとはわかっているけど、初めて立岡の知らなかった部分を知って、放置する事はできなかった。
「不安?不安······いや、不安な事は無いよ。何だろうね、眠ったら明日が来るから、それが嫌なんだと思う」
その感覚がわからなくて何も言えない。
立岡はふっと俺に微笑みかけた。
「変な事言ってごめんね。寝るならベッド使っていいよ。俺はここにいるから、何かあったら言ってくれたら──······」
「いや、決めた。俺がお前を寝かせてやる」
「え?何その言い方!殺される?怖い!殺されるの俺!?」
「殺さねえよ」
酒を取り上げテレビを消した。
そのまま立岡を無理矢理連れて寝室に行く。部屋の明かりを暗くし、ベッドに寝かせて、腹辺りをポンポンと軽く一定のリズムで叩いた。
「······俺ね、子供じゃないんだ。気付いてた?」
「ああ、随分前から気付いてた」
立岡はくすくす笑うけど、ピタッと笑うのをやめた。
「こんなことされるの、初めてだなぁ」
その言葉に立岡の過去を垣間見ることができたような気がする。
「······たまにはいいだろ。」
「うん、そうだね。······不思議だ。今、すごく眠い」
「······おやすみ」
そう言って、しばらく手を動かしていると、スースーと規則正しい呼吸音が聞こえてきた。顔を覗くと目を閉じて眠っていて。
このまま朝まで深く眠らせてやりたい。
布団を肩まで掛け直してやって、音を立てないようにして部屋を出た。
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