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第68話
朝になって目を開けると、立岡は隣でベッドに座ったまま何処か一点を見ていた。
「立岡······?」
「············」
「おい、大丈夫か?」
「······うん、すごい、朝まで寝れた」
ゆっくりと目がこちらに向いて、体を起こした俺に抱きついてきた立岡。胸あたりにある頭を撫でると、クスクスと笑って何やら楽しそうだ。
「久しぶりにちゃんと眠れた。ありがとう」
「よかったよ。」
体が離れて、ぐっと伸びをした立岡はそのまま「朝ご飯食べようか」と部屋を出て行く。
朝食を2人で黙々と食べ、早速仕事に取り掛かった立岡は9時前になると突然立ち上がった。
「お前、相良舞に何かしたの?」
「何か?······記憶はないけど」
「例えばさ、告白されて振ったとか」
「······そんな経験はありすぎて、いちいち誰に言われたかなんて覚えてない。」
「わあ、イケメンのリアルな悩みだね」
呆れたようにそう言いながらパソコンの画面を指さして「狙われてるよ」と言葉を続けた。
「誰が、誰に」
「······お前が、相良組に」
「何で」
「相良組からの誘いを断ったこととかある?」
「······眞宮に入る少し前に、誘われた組はいくつかあったかもしれない。」
そこに相良がいたかは覚えていない。そう伝えるとだんだんと立岡の表情が少し曇っていった。
「お前の情報、本当に俺と同じような奴に売られてるのかもしれないね。すぐ調べてみるけど、形跡が残ってなかったらわかんないから、あんまり期待しないで」
「ああ」
自分の事を誰かに知られるのは別に辛いとは思わないから何でもいいけど、組に迷惑がかかるなら話は別だ。
俺はそろそろ仕事に行く為に、1度家に帰ろうかなと支度を始め、立岡にそれを伝えようとした時、携帯が大きな音を鳴らした。その携帯の持ち主は立岡で、電話に出ると「今日は遊べないよぉ」と言いながら手を動かしている。
「無理だってば、執拗いと切るよ。」
「······セフレか」
ぼそっと呟くと立岡が俺を見てニンマリと笑う。
「じゃあね」
電話を切った立岡は、ポイッとそれを机の上に投げる。少し大きな音が鳴った。
「······お前、そんなに遊んでるのか」
「まあ、そうだねえ。眠れないから、時間を有効活用ってね」
何だか、いつも気丈に振舞っていた立岡がとても小さく見えてきて、俺は他人からそう思われるのはすごく嫌なのに"可哀想"だと思った。
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