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第71話

地下から誰も居ない幹部室に戻ってうるさく音を立てながらソファに座った俺に、後ろをついてきた立岡が「ショックなのー?」と聞いてくる。 「ショック?」 「ショックというか、面白いことって言われたのに腹が立っただけ」 「······あの事件を面白い事って言われるのは俺も腹が立つから、仕返ししてあげる。」 隣に座り、俺の肩を抱いた。顔を覗きこまれて視線を合わせる。 「だから、泣きそうな顔しないでよ。」 「······うるさい」 誰にだって知られたくない過去はある。俺の場合知られるのはまだしも、それを笑われるのは許せなくて、胸の奥がズキズキと痛む。 「あーあ、ダメダメ。泣かないで」 「······泣いてない。」 「ほら、志乃の所行こうよ。俺も志乃の話の内容次第で泣くから慰めて」 「俺は泣いてない」 手を引かれ、そのまま若の部屋に連れて行かれる。俺が行っていいのかわからないし、聞いていい話なのかもわからない。 「やっぱりお前1人の方が······」 「無理無理。怒られるにしてもお前がいた方が絶対にましだから。頼むから来てよ。」 「若に出て行けって言われたらそれまでだからな」 「死んでも離さないから!」 まるで映画のような台詞。それを鼻で笑うとジロっと俺を睨みつけ、それでも足を進める。 「志乃、来たよ」 そして着いた若の部屋のドアを遠慮なく開け、中に入ろうとするから、俺は咄嗟に頭を下げた。 立岡は俺の腕を掴んだまま中に入ってソファに座る。目の前にいる若におれはどうしたらいいのかもわからず、視線でその気持ちを訴えかけた。 「何で神崎がいる」 「俺が連れてきたんだよ。言っとくけど神崎を追い出したら俺も出て行くからね。」 「······お前が聞かれていいなら俺は何でもいい。お前の家族の話だ」 「何でこのタイミングなの?冴島から何か聞いたわけ?今更お前に俺の家族について話すことは無いし、その気もない。」 「······お前、今日は眠れたのか」 突然話が変わって、立岡が顔を顰める。 「寝たよ。朝までぐっすりね」 「······そうか。あまり無理するなよ。」 「お前がそんなこと言うなんて気持ち悪いな。それより、今日お前だけがここにいるってことは、梓君は冴島と留守番?」 「ああ。それで······お前達のこと、聞いた」 ちらっと若が俺を見る。 どうやら昨日のことは全て聞いているようだ。

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