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第72話
「聞いたって、冴島と神崎が喧嘩したことも全部?」
「ああ。」
立岡は軽く頭を抱えて、俺に「座りなよ」と言って隣を叩いた。
「ああ、神崎、座れ」
「はい。失礼します」
腰を下ろして若を見る。ここの居心地は正直最悪で、だから無意識に立岡の方に体を寄せていた。
「もー!志乃がそんな雰囲気出すから怖いじゃん!」
「······何もしてないだろうが」
それを誤魔化すためか、立岡が俺に抱きついて若には見えない背中をぽんぽんと軽く叩かれる。
「で、志乃。今から始めるのは尋問ですか?」
「違う。······俺から冴島に伝えた。何を言われたのかは知らないが、お前は何も気にしなくていい。」
「本当、お節介だよね。まあ······嫌いじゃないよ」
離れていった立岡の口元は小さく歪んでいる。立岡にそれを伝え終えた若は、すぐに俺を見て「お前は······」と言葉を続けた。
「冴島と付き合ってることは聞いた。それは勝手にすればいい。けど······あいつは面倒だぞ。すぐに嫉妬するし、キレたら俺達でも押さえるのは大変で······」
「だよねぇ。本当何で冴島にしたのさぁ。もっといい人がここに居るのに」
「······誰の事だよ」
ついつい立岡の言葉にツッコミを入れると、若がクスクスと笑い出す。
「まあ、そこは何でもいい。······問題は相良だ。」
居心地の悪かったこの場所が、俺にとっては馴染みのある雰囲気に変わって少し気持ちが楽になった。
「あいつ、カラスと手を組んでたよ」
「······カラスは人を選ぶだろ。嘘じゃねえのか」
立岡と同じことを言う若。俺はカラスって奴に会ったことは無いけれど、どうやらこの業界では有名なようだ。
「いや、そうじゃないっぽい。色々調べてたけど、情報を覗かれた形跡がないから、やったならなかなかの手練だ。」
「カラスは浅羽と繋がってた筈だ。それが、よりにもよって相良と?信じられない」
「信じられなくても、それが本当なの。······あいつは面白がって神崎の情報を売ってる。この前神崎が相良舞に手を出したのは、その情報を使って神崎を怒らせたから。」
突然俺の名前が出て驚いた。若に「そうなのか?」と聞かれて1度頷く。
「神崎の過去を"面白いこと"ってね。そりゃあ怒るでしょ」
「そうだな。」
この人達は時々、本当に極道なのかと疑う程、優しい時がある。
今だって、俺が辛い思いをしていないかチラっと確認しては、傷つかない言葉を選んで話してくれる。
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