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第73話
「兎に角だ。カラスが関わってるなら、何が起こるかわからない。気を引き締めろ」
その後は解散になり、俺はすぐに若の部屋を出て幹部室に戻った。
しばらくして立岡がやって来て、「今日は家に帰るの?」と聞いてくる。
「帰らねえと、服が無い」
「······帰らないでほしいな」
「無理だ。秀と言い合ったままだし······」
「いいじゃん。どうせ志乃が帰らないと冴島は帰れないよ」
そう言われて、確かにそうだなと頷く。若は一体いつ帰るのだろうか。秀がいても、梓さんと離れる時間がそんなに長いわけがないからすぐに帰ると予想はしてるけど。
「今日珍しく志乃が出てきたってことは、仕事が山積みって事でしょ?帰らないんじゃない?」
「······そうなのか?」
「多分そうだよ。だから、今日も俺の家に来なよ。」
「か、確認する」
昨日は立岡のところに行くって言ったからいいとして、今日は何も伝えていないから帰らなかったら心配するかもしれない。あれだけ俺が好きだって言ってたから。
「小学生みたいだね。遊びに行くのを確認するの。お前30過ぎてるんでしょ?」
「うるさい」
携帯を出して電話をかける。隣で立岡がニヤニヤとしているけれど、気にしない。
「もしもし」
少し不機嫌そうな声音で電話に出た秀。まだ怒ってるのだろうか。
「今日、お前は帰るのか」
「······さあ。何で?」
「帰らないなら、俺もそうしようって」
「······それは君の勝手にすればいい。立岡と仲良くしてなよ。じゃあね」
一方的に電話を切られ、立岡を見るとケラケラと笑っていた。どうやら声が漏れて聞こえていたようだ。
「冴島冷たすぎー!」
「······君って、言ってた」
「え?何?呼び方?いつも彩葉だっけ。でも昨日も君って言われてたよ」
「······名前呼ばれるの、好きだったのに」
「は?」
ぴしりと固まった立岡は、俺の言葉を理解するとまた笑いだした。
でも、俺にとっての名前は母さんが残してくれたものだから大切なんだ。
「俺が呼んであげるよ。冴島じゃなくても、俺が」
「笑ったから嫌だ。」
「違うじゃん!らしくなくて笑ったんじゃん!別に内容を馬鹿にしたわけじゃないよ!」
必死で撤回しようと縋りついてくる立岡を笑いながら見下ろす。
「嘘だよ。好きに呼べば。秀のことは······抗争があるからこれ以上ややこしくしたくないし、しばらくお前の家に泊めて」
「いいよ!」
抗争の前に、気持ちが揺らぐようなことにはなって欲しくない。
この選択があってるのかはわからないけど、また喧嘩をするよりマシだと思って、暫くは立岡と過ごすことにした。
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