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第75話

志乃が帰ってきたのは夜遅くで、日も跨いでしまっていたから、このまま泊めてもらうことにした。 「今日神崎と話してきたぞ」 「嫌味かな?」 梓君が眠った後、酒を飲むと言った志乃に付き合わされる形で、俺も酒を楽しんでいた。 「あいつの情報が売られてる。相手はカラスっていう情報屋だ。」 「えっ?何で······彩葉の情報が売られるの?それなら志乃や梓君の方が何倍も効率がいいだろ。」 そう言うと志乃は怖い顔をした。でもどうやら今の言葉がまずかったとかじゃない。 「あいつの過去の事を、面白がってる。どうやっても普通とは違うから売ったんだ。確かに神崎の情報は高く売れるだろうな。」 「······そんなの、酷いよ」 「ああ。······これを相良舞から聞き出したのは立岡だ。あいつは神崎の為に動いた。悪影響なだけじゃねえってことはわかったか?」 確かにその通りだ。1度頷くと志乃は小さく笑った。 「立岡が言うには仕返しをするらしい。あいつには珍しく怒ってたからな、本気だろう」 「······志乃はさ、梓君が他の誰かに取られそうだと思ったら腹が立たない?」 「なんだよ急に······。そりゃ腹は立つし、梓には俺しか見れないようにまた躾するかもな」 ニヤリと嫌な笑みを見せた志乃は、「でも」と言葉を続けた。 「取られるってことは、俺にも非があるわけだからな······。梓を満足させてやれてねえってわけだ」 「······俺は今、彩葉が立岡に取られそうで怖い。あの2人は正反対だから、何をしなくても惹かれあってしまうんだよ」 「お前が何かをして神崎を繋ぎ止めればいい話だ。例えば······帰ってこいって、泣き喚いてみろよ」 テーブルに置きっぱなしにしていた携帯を指さす。釣られるように手を伸ばして、それを掴んだ。 「神崎の方が年上なんだ。お前が気丈に振る舞うのは、神崎が弱ってる時だけでいい。」 「······志乃と梓君も、そんな感じ?」 「ああ。無理に強がられるよりずっといい。」 もう真夜中で、もしかしたら彩葉は眠っているかもしれない。けれど、動く手を止めることはできなかった。 「ま、待って、先に酒飲む······っ」 「好きにしろよ」 こんな風に恋愛について志乃に背中を押される日が来るなんて思ってなかったなぁ。

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