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第76話
酒を飲むと勢いでなんでも言える気がした。
遠慮なんて無しに電話をかけて、彩葉が出てくれるのを願う。
何コール目かで電話が繋がって「はい」って、少し掠れた彩葉の声が聞こえた。
「······寝てた?」
「いや」
素っ気ない彩葉の声。でもこれは仕方がない。昼間は俺が彩葉の電話を一方的に切ったんだし。
「い、彩葉に、言いたいことがある」
「何だ。文句なら聞かない」
「っ、······お、俺彩葉に言ったよね?俺は、初恋なんだよ!!」
「······はぁ?」
呆れた様な、意味がわからないというような彩葉の反応。俺も何が言いたいのかはわからないけど、気持ちが高まってきて、目頭が熱くなる。
「初恋なんだ!!だから、わからないんだよ!!」
「······落ち着けよ、ちゃんと聞くから」
「君はそりゃあ!今まで色々経験してきたと思うけどなあ!俺は全部が、初めてで······だから今日、これが嫉妬って気付いてっ!」
「わかった。わかったから、ちょっと声を小さくしてくれ、うるさい」
いつの間にか頬に流れていた涙を手の甲で拭う。志乃が呆れた顔で俺を見ていた。
「立岡の所になんか行かないでよっ!ずっと······ずっと、俺の横にいてよっ!」
「············」
「俺が、悪かったのなんて、わかってるからぁ!」
「······悪い事した時に言うことは?」
若干笑いを含んだ彩葉の声が聞こえて、少しだけ安心する。
「······ごめんなさい」
「いい子だな。······今どこだ。迎えに行く」
「志乃の、家」
「わかった」
電話が切れて、携帯を置くと志乃は「迎えに来るって?」と聞いてくる。
「······うん」
「本当に泣くとは思わなかった」
「誰にも言うな」
「誰に言うんだよ。」
俺の荷物をバッグに押し込んだ志乃は、それを押し付けるように渡してくる。
「俺なら、待っててほしいと思う」
「······下で、待ってたらいいの?それから、何したらいい?また謝ればいい?」
「さあ?思ったように行動してみれば。」
バッグを受け取り、玄関を出る。
「神崎に、明日は休みでいいって言っとけ」
「······ありがとう」
志乃にお礼を言って、走ってマンションを出た。
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