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第93話

外に出るとここがどこだかやっとわかった。 「······教会」 「そうだよ。神崎、もう寝ときな。」 「······立岡、もういい、生きたくない」 母さんとの思い出の場所。 そこでさえ、汚いものに塗り替えられてしまった。 止まらない涙が頬を濡らす。 「冴島に連絡しようか」 「嫌だ······。頼む、誰にも会いたくない······」 「なら、体が無事かどうかだけでも診てもらおう。俺が前に診てもらったことのある医者の所に行くよ。」 体が冷えきっている。 立岡に連れて行かれた建物で、すぐに風呂に入れさせられて俺の体を見る医者の男は、悲しげな表情をしていた。 「これ、何の薬打たれてたかわかる?」 「············」 「ごめんねトラさん。今は会話出来ないと思う」 「そう······。でも困ったわね、もし危ない薬なら······」 話す事も億劫で、自分の手首を見ると、拘束されていたせいで痕がついていて、気持ち悪さに嘔吐した。 突然の事で立岡も、医者も驚いていたけれど、そんなの気にしてられなかった。 「はぁ、はぁ······っ、ぁ、汚、いっ」 「何?これ?······ねえトラさん。手首に包帯巻いてあげて。」 拘束の痕を見た医者はすぐに俺の両手首に包帯を巻いた。痕が見えなくなって、気持ち悪さが薄れる。 「神崎君、ここはもう安全だから、少し休みましょうね」 「っ、触るなっ」 背中を撫でられてその手を払った。立岡に促されベッドに寝転がる。 「神崎、大丈夫。誰にも言わないから、ゆっくり休め。」 「······殺せって、言ったのに」 「殺さないよ。俺はお前に生きてほしいから」 ポンポンと、前に俺が立岡にしてやったみたいに、軽く腹を叩かれる。そうされると体力も限界だったようで、泥のように眠った。

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