94 / 188
第94話
目を覚ますとすぐ隣に立岡がいて、俺を見て柔らかく笑った。
「おはよう。気分はどう?気持ち悪いとか、頭痛いとか、ない?」
「······まだ、生きてた」
「生きてるよ。俺がお前の傍にいる限り、お前は死なない。······ねえ、今日はちょっと提案があるんだけど」
立岡が俺の手を取って、そのまま両手で優しく包む。
「昨日は、見えるところだけ先に診てもらったけど、今日は隠してるところも診てもらおう?」
「······隠してる、ところ」
「そう。俺がお前に会いに行った時、後ろから血が流れてるの見えたから······」
どういう意味がわかって、カッと顔が熱くなる。立岡の手を振り解こうとしたのに、強い力で掴まれる。
「診てもらって。それができたら、冴島には絶対にここに来させない」
「秀、だけじゃないっ」
「ああ、そうだった。皆だったな。約束するよ」
なんとも言えないショックな気持ちになりながらも、頷く。
大丈夫、相手は医者で、変なことはしないから。
「トラさん、良いってよ」
「本当?ありがとうね、神崎君」
「っ、でも、早く済ませて、くれ」
「ええ、もちろんよ。じゃあ立岡君は向こうに行っててね」
医者と2人きりになって、履いていたスウェットと下着をズラして、横向きに寝転がる。ゴム手袋をつけた手が、尻に触れる。
「ちょっと触るわよ」
「っ」
「······ごめんね、少しだけ指入れるから、力抜いててね」
「ぅ······っ」
ピリピリと痛みが走る。すぐに指は抜けて、無意識に体に入っていた力が抜けた。
「中が切れてるわ。薬塗りましょうね。痛くないからね」
薬も塗られて、それが終わると下着とスウェットを履き直した。
「他には大丈夫?痛む所はある?」
「······無いです」
「じゃあ、少しだけ話させてほしいの。」
「なん、ですか」
医者は、ベッドの横に椅子を置いて話し出した。
「その前に、私はトラ。よろしくね」
「······神崎、彩葉」
「彩葉って、素敵な名前ね。あなたにぴったりだわぁ。ハーフなの?」
「······そう」
トラは笑顔のまま、話を続ける。
「治療するにあたって、立岡君から大まかな事は聞いたの。貴方は恋人に会いたくないそうだけど、これからはどうするの?」
「······これからなんて、考えてない」
「どうして?貴方は何処も汚くないのよ。むしろ綺麗で、だからもっと愛されるべきだわ。」
「······愛されたから、こうなった。」
愛情って、こんなにも苦しい。
「俺は、もう······誰にも、愛さたくないっ」
愛されたから、あのクソ男に母さんは殺されて、俺は犯された。
俺にとって愛っていうのは、人を苦しめるものなんだ。
ともだちにシェアしよう!