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第94話

目を覚ますとすぐ隣に立岡がいて、俺を見て柔らかく笑った。 「おはよう。気分はどう?気持ち悪いとか、頭痛いとか、ない?」 「······まだ、生きてた」 「生きてるよ。俺がお前の傍にいる限り、お前は死なない。······ねえ、今日はちょっと提案があるんだけど」 立岡が俺の手を取って、そのまま両手で優しく包む。 「昨日は、見えるところだけ先に診てもらったけど、今日は隠してるところも診てもらおう?」 「······隠してる、ところ」 「そう。俺がお前に会いに行った時、後ろから血が流れてるの見えたから······」 どういう意味がわかって、カッと顔が熱くなる。立岡の手を振り解こうとしたのに、強い力で掴まれる。 「診てもらって。それができたら、冴島には絶対にここに来させない」 「秀、だけじゃないっ」 「ああ、そうだった。皆だったな。約束するよ」 なんとも言えないショックな気持ちになりながらも、頷く。 大丈夫、相手は医者で、変なことはしないから。 「トラさん、良いってよ」 「本当?ありがとうね、神崎君」 「っ、でも、早く済ませて、くれ」 「ええ、もちろんよ。じゃあ立岡君は向こうに行っててね」 医者と2人きりになって、履いていたスウェットと下着をズラして、横向きに寝転がる。ゴム手袋をつけた手が、尻に触れる。 「ちょっと触るわよ」 「っ」 「······ごめんね、少しだけ指入れるから、力抜いててね」 「ぅ······っ」 ピリピリと痛みが走る。すぐに指は抜けて、無意識に体に入っていた力が抜けた。 「中が切れてるわ。薬塗りましょうね。痛くないからね」 薬も塗られて、それが終わると下着とスウェットを履き直した。 「他には大丈夫?痛む所はある?」 「······無いです」 「じゃあ、少しだけ話させてほしいの。」 「なん、ですか」 医者は、ベッドの横に椅子を置いて話し出した。 「その前に、私はトラ。よろしくね」 「······神崎、彩葉」 「彩葉って、素敵な名前ね。あなたにぴったりだわぁ。ハーフなの?」 「······そう」 トラは笑顔のまま、話を続ける。 「治療するにあたって、立岡君から大まかな事は聞いたの。貴方は恋人に会いたくないそうだけど、これからはどうするの?」 「······これからなんて、考えてない」 「どうして?貴方は何処も汚くないのよ。むしろ綺麗で、だからもっと愛されるべきだわ。」 「······愛されたから、こうなった。」 愛情って、こんなにも苦しい。 「俺は、もう······誰にも、愛さたくないっ」 愛されたから、あのクソ男に母さんは殺されて、俺は犯された。 俺にとって愛っていうのは、人を苦しめるものなんだ。

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