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第97話 神崎side
体の傷は治って、けれど怠くて体を起こすのは無理だった。
「神崎君、ご飯食べれる?」
「······要らない」
「じゃあ、ヨーグルトだけでも食べましょう?」
「······置いておいて」
ベッドに付いているテーブルにヨーグルトを置いたトラ。
「それだけは、ちゃんと食べてね」
「······うん」
そう返事をして、宙を眺める。
少しすると立岡がやって来て、俺を見て柔らかく笑う。
「体調はどう?」
「何ともない」
「そう?あ、これ食べるの?開けたげる」
ヨーグルトの蓋を開けた立岡は、スプーンを取る。
「はい、ちょっとごめんね」
背中とベッドの間にクッションを挟まれて、体を軽く起こした。
「食べようね」
「······食べたくない」
「食べたくなくても、生きる為には食べないとダメなんだよ」
「生きたくない」
「ううん。言ったでしょ?俺が傍にいる限り、お前は死なない。」
スプーンでヨーグルトを少し掬い、俺の口元に持ってくる。仕方なく口を開けると中にヨーグルトが入ってきて、それを飲み込んだ。
何だか、粘土を食べてるみたいだ。
「ちゃんと食べれて偉いね。」
「子供扱いするな」
「あはは、そうだね。俺より年上だもんね。はい、まだあるよ」
用意されたヨーグルトは全部食べて、また少し気持ち悪くなったけれど、吐くほどではない。
「体調が戻ったら、仕事手伝ってよ。もう抗争が始まる。」
「······もう大丈夫だから、俺は俺の仕事に戻る。」
「ダメだってばぁ。俺に付き合って!ね?」
「でも、前線に立ちたい」
そう言うと立岡は溜息を吐いて、俺の肩をポンポンと叩く。
「わかったよ。でも、俺と死なないって約束して」
「死なない」
「どんな状況になっても、命を無駄にするような行動は取らない。絶対だよ」
「うん」
抗争で、前線に立てると思うと体の怠さがマシになった。
「帰る」
「お前の家に?冴島が来るかもしれないよ」
「······立岡の家に帰る。」
「うん、おいで」
立岡の好意に甘えて、秀から逃げた。
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