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第98話

外に出るといつもより少し暖かかった。立岡の車に乗り、立岡の家に向かう。 「あ、そういえばお前の車、ゴミになってたよ」 「······あんまり記憶が無い。すごい衝撃があったのは覚えてる、けど」 「ぶつかられたんだよ。車は大破。あれでお前が死ななかったのも奇跡だよ。大した怪我もなかったみたいだしね」 「うん」 立岡の家に着いてソファに座った。まだ少し体が怠い。 「お風呂沸かしてあげるからさ、先に入って、いつでも寝れるようにしておきなよ。まだ体辛いんでしょ?」 「······ありがとう」 「ううん、着替えも置いておくから、お風呂か沸くまで休んでな。俺そこの部屋で仕事してるけど、何かあったら遠慮しないでおいでね」 そう言って部屋に入って行った立岡。 俺はこのままここで少し休ませてもらうことにして、体を横にした。 「······疲れた」 ポツリと自然と零れた言葉。 気持ちを吐くと楽だった。1度漏らしてしまえば、それは止まらない。まるで蛇口を捻った水道のように、誰かに止められるまでは言葉が流れ続ける。 「何で、俺が」 「辛い」 「苦しい」 感情を吐露して、しばらく経った。風呂が沸いた音が聞こえて、ハッとする。 「······風呂」 ゆっくりと立ち上がり、立岡の貸してくれた着替えを持って風呂場に行く。足取りは重たい。 「······死にたい」 吐き忘れていた言葉が落ちて、心に重たくのしかかった。 風呂から上がると立岡がいて、「ベッド使いな」と髪を乾かしてくれた後にベッドまで貸してくれた。 「神崎、お前が味わった苦しみはわからないけど、お前が助けて欲しいなら、俺はいくらでも手を貸すから」 「······俺、この間お前に何も言わずに出て行ったのに、怒ってないのか」 「怒ってないよ。そんなので怒らない。······さあ、寝ようか」 ここも安心出来る場所だ。何も不安に思わなくていい。ゆっくり休めばいい。 それなのに、された事を思い出して心臓の動きが激しくなる。立岡は困った様な、悲しそうな表情をして、俺の手を握る。 「大丈夫だよ。何もしないから、安心して」 「······怖い」 「うん、怖いよね。でもここにはあいつは居ない。俺だけだよ。俺はお前に酷いことをしない。」 「っ、はぁ」 「よしよし。そのままゆっくり呼吸して、目閉じて」 言われたまま目を閉じる。 「次目覚ました時は、何も覚えてなくていい。全部忘れていていいからね」 その言葉を最後に、ふっと意識が飛んだ。

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