100 / 188

第100話

立岡にはまだゆっくりしておけばって言われたけれど、そんな事より動いていたくて、立岡に本家まで送ってもらい仕事を再開した。 「無理しない事。少しでも体がおかしいなって思ったら、どんな時でも言い、連絡して。」 「過保護だな。俺の方が年上だぞ」 「わかってるよ。でも、友達は大切にしたい」 そんな風に言ってくれるから、照れを隠すためにもくるんと背中を向けて、幹部室に行く。 「俺は志乃の所に居るからね!」 「わかったよ」 今日も若は来ているようだ。 さあ、仕事に集中しよう。そう思っていると、幹部室の方から誰かが歩いてくる。 「──······彩葉?」 「っ!」 目が合った瞬間、すぐに踵を返して、見えてきた立岡の背中に突撃した。当然の事でふらついた立岡は、後ろを振り返って何事かと確認する。 「神崎······?え、何、どうした······。ああ、冴島か」 「逃げる」 「いいと思うよ。気が済むまで一緒に逃げよう」 秀が追いかけてくる。 立岡に手を取られて、走った。 「彩葉っ、待って!」 そんな悲痛な声も聞こえてきたけれど、足を止めることは出来ない。 汚れてしまった自分を見せたくなくて、ずっとずっと、逃げ続ける。 そうして走っていたのに、突如腕を掴まれて足が止まった。 「彩葉っ、逃げないでっ!」 「ひっ、ぃ······っ」 すぐそばで聞こえてくる声に息が出来なくなる。 「冴島、手を離せ」 「お前に言われる筋合いは無い」 「お前、医者だろ?今のこの状況見て、そのままでいられるのか?」 体が細かく震える。 秀に触られた途端、汚いって思って、立岡の手を縋るように掴む。 「冴島早く離せ!」 「······っ」 ゆっくりと秀の手が離れて、やっとちゃんと呼吸が出来た。崩れそうになっていた俺を支えてくれる立岡に甘えて、軽くもたれ掛かる。 「わかっただろ。しばらくお前の所には帰せない。用があるなら俺に連絡して」 「······志乃から聞いてる。······彩葉、俺、待ってるから」 その言葉がずんっと心に響いた。視界がぼやけて、誤魔化すように立岡の肩に顔を押し付けた。 「大丈夫だよ。······冴島、悪いけど消えろ」 「······うん」 秀の足音が遠ざかる。 「神崎、俺の部屋に行くからね。」 「······ん」 立岡は情報担当で、周りから邪魔されないようにと個室を貰ってる。そこに移動して、部屋に置いてあった椅子に座らされた。

ともだちにシェアしよう!