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第101話
「頑張ったね。大丈夫?まだ苦しい?」
「······ちょっとだけ」
「うん、ゆっくり休んで。でも、あいつが今日ここにいたのは想定外だったな······。抗争の事で親父と話してたんだとは思うけど······」
体が疲れて背もたれに背中を預けて目を閉じる。
「ねえ神崎、今はこれでいいけど、これからはどうするつもり?」
「······知らない。とりあえず、抗争が終わるまでは何も考えないことにする。」
「ふーん?別にいいんだけどね。もし抗争で何かあったら冴島があまりにも可哀想だから、そうなる前に電話くらいはしてあげな」
「······わかった」
それは後でするとして、やっと落ち着けたから、今度こそ仕事に戻ろう。
「あれ?もう行くの?」
「ああ」
「そう。帰る時は言ってね」
「わかった」
深呼吸してから部屋をでる。
幹部室に行くと誰もいなくて、そりゃそうだよな、と抗争が間近に迫る中、俺だけゆっくりと過してることが申し訳なくなる。
「誰かいるか」
「はい」
自己嫌悪に陥りそうになっていると、若の声が聞こえてきた。返事をすると部屋に入ってきた若は、「もう無事か?」と聞いてくる。
「はい。ご迷惑をおかけしてすみません」
「いや、いいんだ。······急で悪いが、相良が動きだしたみたいだ。幹部と組員に連絡しろ。」
「わかりました。」
若の真剣な表情に、気持ちがぐっと引き締まる。
幹部に連絡し、組員にも連絡を入れた後、秀のことを思い出して携帯を持つ手に力が入った。
「電話、しなきゃ」
さっき会ったばっかりで、しかもひどい態度をとった。それなのに······自分勝手だとはわかっているけれど、伝えないといけないことはある。
電話をかけて、相手が出るのを待っていると「彩葉っ?」と驚いたような声が聞こえてきた。
「しゅ、秀······」
「うん、さっきはごめんね。君を追い詰めるようなことをして」
違う、謝るのは俺の方で、なのに言葉が出てこない。
「っ、抗争、始まるから、連絡······」
「彩葉、落ち着いて。ちゃんと聞くから、ゆっくり話して」
胸が苦しくなる。さっきは逃げたくせに、今は会いたい。
「抗争が、始まる。······だから、連絡した。」
「そう······。俺、さっきも言ったけど、待ってるよ。彩葉が帰ってくるの」
「······お前に、話さないといけないことがある」
父親にヤられて汚された事、全部話さないと。
「何?」
「······帰ってから、話す。」
今度こそ逃げないで、自分の言葉で話すから。
「うん。無事に帰ってきて。······愛してるよ」
「っ、ぁ、お、俺も」
複雑な気持ちなまま、電話を切った。
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