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第102話 冴島side

彩葉に拒絶されたと思った。でも、決してそうではなかったのだと、電話を終えて感じる。 「今は立岡に任せるしかないよな······」 本当は1番に彩葉を支えたいけれど、今彩葉が心を開いてるのは立岡だ。 そして抗争が始まるなら、俺は救護要員だし、何より梓君を守らないといけないし、近くにはいられない。 「よし、俺も······もっとちゃんとしなきゃ」 彩葉が帰ったら、話があるって言ってた。 決して楽しい話じゃないかもしれないけれど、それでもちゃんと聞きたい。 彩葉の気持ちを、ちゃんと知りたい。 「梓君!」 「わっ、ぁ······何?」 テレビを見てた梓君に後ろから話しかけると驚いて振り返った。 「抗争、始まるって。俺と暫くここで留守番ね」 「えっ······志乃、志乃に電話する······」 狼狽する梓君を落ち着かせるのは、俺にはできない。志乃に電話をしだした梓君は、次第に涙を流しだして、邪魔しないように少し距離をとる。 「うん······絶対、無理しないで······」 目に涙を浮かべて、けれど強く言葉を伝えたのが偉いなと思う。 「うん、待ってるよ」 そして電話を切った梓君は涙を拭い、俺を見て笑顔になる。 「冴島さん!またお菓子作ろうよ!」 「うん、いいよ」 この前の事件で梓君も心に深く傷を負ったはずなのに、今はこんなに強くなってる。 だから、俺も成長しないといけない。 「何作る?」 「えっと······チョコレートがある。チョコレートで作れるお菓子調べよっと」 自分達はこれくらい能天気でいる方がいい。 考えすぎるとそれに潰されてしまう。 「ガトーショコラだって。できるかなぁ?」 「材料はある?」 「あると思う。この前の残りもあるし······」 「よし!じゃあそうしよう!」 気にはなるけど、そればっかり気にしない。 そういう風に徹底すると不思議と恐怖は薄れていった。

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