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第105話

ああ、この感覚が心地良い。 「相馬ぁっ、前見ろっ!!」 速水の怒鳴り声が遠くにいる俺にまで聞こえてくる。それに混ざって銃声と、骨と骨がぶつかる音。呻き声が下から聞こえて、それを止めるために足を勢いよく下ろした。 相馬がどうなったのか気になってそっちに顔を向けると左肩から血を流して、それでも敵に向かっていった。 「神崎ッ!」 自分は特に大した手柄を上げていない。それなのに、突然無防備にも走ってきた立岡に腕を掴まれた。 「下がれ!すぐに、ここから逃げろ」 「は?何言ってんだ。それよりなんでお前がここにいる、危ねぇだろ!」 情報を担当する立岡は、別の場所で逐一情報を集めては知らせないといけない。絶対に欠けてはいけないのに、こんなところまでくるなんて。 「いいか、ちゃんと聞け。相良組に混じって、お前の父親がここにいるかもしれない。さっきカラスを見た。」 「······何?」 「カラスが、ここにいた。お前の父親はカラスと手を組んでる。きっとこの前父親を回収したのはカラスだ。タイミングを待って、やってきた」 さっきまで聞こえていた喧騒が今は気にならなかった。立岡の声だけしか届かない。 「逃げろ。」 「でも、今逃げるなんて······」 「逃げろって言ってんだろうが!!今もしここでお前が崩れたら、戦況が悪化するかもしれねえだろ!!」 普段の立岡からは想像出来ない荒々しい言動に目を見開いた。 「絶対に捕まるな。次は見つけられないかもしれない。カラスは俺より上手だ。······頼むから」 掴まれていた胸倉から、そっと手が離れる。 「車を回した。志乃に連絡も入れてる。ついてきて」 立岡に手を掴まれる。そのまま走り出そうとした時、ドンッと誰かに体に強く当たられて、突然背中に走った痛みに膝から崩れた。 「アメリア、逃げちゃダメだろ」 「神崎っ!!」 振り返ってみれば親父が俺を見て歪な笑みを浮かべていた。 「おい!こいつを押さえろ!」 立岡が怒鳴り声を上げて、周りにいた組員に男を拘束させた。 脇に両腕が差し込まれ、引き摺られるように隅に移動した。 「はぁ、ぁ······いて、ぇ······」 「わかってる!!」 臓器までは届いてない。きっと大丈夫。 そろそろ抗争も終わりそうだ。 取り押さえられた自分の父親をぼーっと眺めていると涙が零れていった。 「神崎?」 「······どこから、間違ってたんだ」 母さんと親父が結婚したところから? 俺が生まれたところから? 母さんが、死んだところから? 生まれなきゃよかったのかもしれない。 間違えた点が俺が生まれたところからかもしれないなら、尚更そうだ。 「······疲れたな」 言葉がポツリと落ちた。

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