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第110話
昼頃に目を覚ました彩葉。ぼーっと天井を見ていた目がゆっくりと俺を見る。
「彩葉、おはよう」
「············」
じっと俺を見たあとに、また視線を天井に戻してゆっくりと目を閉じる。
「担当医呼んでくるね」
「······秀」
「うん、何?」
彩葉に名前を呼ばれるだけで嬉しかった。1度離しかけた手をぎゅっと握る。
「······いや、何でもない」
「そう?待っててね」
病室を離れて看護師に彩葉が起きたことを伝え、すぐに来た道を帰る。
病室に戻ると、痛いくせにそれに耐えて体を起こそうとしている彩葉が目に入って、咄嗟に手を差し出した。
「痛いでしょ、無理しないで」
「······抗争はどうなった」
「俺は詳しくはわからない。後で志乃に聞いて」
「······立岡は、無事か」
「うん。1度ここに来たんだよ」
「そうか······」
すぐに担当医が来て、彩葉の診察をする。その間は外に出て、邪魔しないようにした。
その間に彩葉が起きたことを立岡に知らせた。
医者が部屋から出てきて、代わるように中に入ると彩葉はまたどこかを見てぼーっとしてる。
「何か飲む?」
「············」
「彩葉?体辛い?」
今は話しかけられるのが嫌な時間なのかもしれない。誰にだってそういう時があるよなと思い、椅子に座って黙っているようにした。
「──······秀」
「ん?なあに?」
それが少し時間が経つと彩葉の方から声を掛けてきて、顔を彩葉に向ける。
「話、しようか」
「······聞くよ」
まだもう少し、体調が戻って体の方がいいんだろうけど、話そうとしてるのに邪魔はできない。それに、もしこれを止めたら彩葉はもう二度と話してくれないかもしれない。
「あの日······仕事で、お前に見送られて家を出た日」
彩葉にとって忌々しい記憶が、俺の中にも流れてくる。
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