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第111話
何をされたのか、どうして逃げたのか、全部話してくれた。彩葉の声音は淡々としていて、まるで書かれていた内容を読み上げているようだ。
「で、その時あいつを捕まえることはできなかった······というか、俺は捕まえるとか、そういうこと考えれなかったしな。それで今回刺された。あいつはずっと俺の事をアメリアだって言うんだ。」
「······心が壊れてるんだね」
「母さんを殺したのはあいつなのに、都合が悪くなれば俺で代替しようとする。ここまできたら同情するよな。」
怒るわけでも、嘆く訳でもない。
それがどこか妙に感じる。
「秀、ずっとここにいても暇だろ。帰っていいぞ」
「いや······あ、そう言えば相馬君もここにいるよ。」
「ああ、あいつ肩に怪我してたと思う」
少し考えた彩葉は、すぐにそれを辞めて「煙草吸いたい」と言い出した。
「まだ辞めておいたら?ここでは吸えないし、移動しなきゃダメだよ。面倒でしょ?」
「······それもそうだな」
彩葉に触りたいのに、触れない。
それは彩葉自身が纏っている雰囲気のせい。
「彩葉」
「何」
じっと俺を見る綺麗な目。吸い込まれそうになるほど透き通った目。
「彩葉に触りたい」
「······ダメだ。ちゃんと、治ってからな」
「······そう、だよね。ごめんね」
そこまで来てようやく、彩葉が無事だったことが実感出来たようで、目に涙が溜まる。
「秀······?」
「ぁ、いや······ごめん。······彩葉が、無事で安心して······」
「······やっぱり、1回だけ抱き締めさせてやる」
腕を広げて小さく笑うその姿が可愛くて、飛びつきたいのを抑え優しく抱きしめる。
「好きだ、彩葉······」
「ああ」
「か、帰ってきてくれて、ありがとう······っ」
ポンポンと頭を撫でられて、その衝撃で涙が零れていった。
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