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第112話 神崎side

泣いている秀を抱きしめたまま、与えられる温もりに反して、俺の中にあったモヤモヤした感情は膨らむばかりだった。 「彩葉の着替え、持ってくるね!」 「······ありがとう」 「志乃にも連絡入れるよ。さっきは立岡にしか伝えてなかったから······。よく考えたら志乃の方が先だよね」 秀の笑顔を見ると、胸が締め付けられるように痛い。 こんなに汚れてしまった俺に、秀は似合わないから。 でも、そんなこと言い出せなくて、ここまで心配してくれた秀を裏切るようなことはできない。 もう少し、時間が経って······、それこそ俺が退院した頃に。 「じゃあ1回帰るけど、またすぐ来るからね!」 「······うん」 「彩葉」 名前を呼ばれて顔を上げる。途端唇に触れる柔らかいそれ。 「ん······ふ、ぁ······」 舌を絡め合い、口内を蹂躙される。 気持ちいいのに、浸りきれない。 「じゃあね、待っててね」 「っ、ん······わかった、から」 リップ音を立てて離れていったそれがまたすぐに欲しくなったけど、必死で自分を律した。 「神崎ぃ!」 秀が行ってしまってすぐ、相馬がやって来て俺のベッドに激しく音を立てて座る。 「お前、怪我は大丈夫なのか」 「聞いてくれよ、それがくそ痛かったんだよ」 「そんなのはわかってる。動かせんのかって話」 「動くだろ。······え、動かねえとかある?」 痛めている肩を無理矢理動かそうとするから、慌てて「止めろ!」と大声がでる。 「ひっ!!もう、やめろよ!焦るだろうが!」 「俺が焦ったんだよ。」 相馬の馬鹿は絶対に治らないだろうなと思う。 すぐに話を切り変えて、まるで今のことがなかったかのように言葉を続ける。 「さっきまで夏目がいたんだけどな、仕事で呼び出されたんだ。まあ、後片付けの話だと思うけどな。」 「そうか」 「速水はどうしてるんだろうな。あの戦闘狂やべえよな。仲間であることに安心したわ」 頼んでもないのにべらべらと話すから、気が紛れてちょうどいい。 「──それでさぁ、······っておい!お前聞いてねえだろ!」 「聞いてる聞いてる」 本当は全く聞いてないけど。 相馬より秀が気になって仕方が無いんだ。

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