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第115話
仕事はもうずっと休んでいたのに、またしばらく休むことになるのか。
翌日の朝、パンを食べながらそんなことを考えていた。傷の具合を見て抜糸するって言ってたけど、抜糸してからもできるだけ安静にするべきなのか。
「彩葉ぁー!」
「······おはよう」
「おはよう!あのね、これ、忘れてたんだ。梓君と俺でガトーショコラ作ってさ、苦手じゃなかったら食べて欲しくて!」
うるさいくらいに明るい声で病室にやって来た秀。そしてすぐにタッパーに入れられたそれを見せてきて、食べていたパンよりそっちが欲しくなった。
「食べる」
「うん!フォークも持ってきたよ」
「お前も食えば」
「もういっぱい食べたんだよ」
ふーん、と返事をしながらそれを食べると美味しくて思わず息を吐く。
「美味しい?」
「美味い」
「よかったぁ。」
甘い味に疲れが少し取れたような気もする。
休むことなく食べてると、秀が穏やかに笑って俺を優しい目で見た。
「早く、彩葉と2人でまた暮らしたいな」
「······そうだな」
返事をしてすぐ、背中にゾッとした悪寒が走った。
突然恐怖が襲ってきて、フォークを持つ手が小さく震える。
「彩葉?どうしたの、どこか痛い?」
「······大丈夫」
フォークを置いて右手を左手で包むようにぐっと握った。
「彩葉······本当に、大丈夫?」
「っ、大丈夫だって······」
声が震える。それを抑えられなかった。
「······何か······飲み物、買ってきて」
「······わかった」
落ち着きたくて、秀から逃げたくて、部屋から出させた。
ああもう、何が怖いかなんてわかりきっている。
俺はずっと、あの日母さんを殺された日からずっと、愛されることが怖いんだ。
そして、二度と同じような間違いを犯したくない。
「······逃げないと」
もう秀の手が届かない場所に。
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