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第116話 冴島side
突然苦しそうにしだした彩葉。そのまま飲み物を買ってきてと言うから、急いで自販機に行って戻ってくると、そこに姿がなかった。
「······え」
事態が飲み込めなくて、呆然とする。
いや、もしかしたらトイレに行っただけかもしれない。そう思って少し待ってみるも、帰ってくることは無かった。
「······立岡」
もしかしたら、ふらりとどこかに散歩に行っただけなのかもしれない。けれど、さっきの彩葉の落ち着きのなさを見ると、あまりそうとは思えない。
今頼れるのはあいつだけだ。すぐに見つけてもらって、それで、迎えに行かないと。
電話をかけると直ぐに繋がった。
「──もしもし」
「立岡っ」
「え、何、怖い······」
俺も落ち着かないと、ちゃんと伝えられない。
気持ちだけ焦るばかりで、言葉が落ちてくれない。
「落ち着けよ。ちゃんと聞くから」
「······い、彩葉が、居なくなった」
「はぁ?」
驚いたような声を出した立岡は、すぐに舌打ちを零した。
「すぐ見つけるから、お前はそこにいろよ。変に探し出したりするな。前も······お前から逃げようとしたことがあっただろ。」
「う、ん」
「じっとしてろ。連絡するまで、そこを動かないこと。約束して」
「······わかった」
確かに今俺がここから離れたところで、彩葉は見つからない。
きっとすぐにバレるからと家には帰っていないはずだし、立岡の家も同じ理由で行かないと思う。他には眞宮組だとか······それ以外はわからない。
「──なあおい、こっち手伝って」
「え?」
聞こえてきた立岡の声。反応すると「あ」と向こうも反応する。
「違うお前じゃない。律 、手伝って」
······律って誰だろう。
いや、そんなことより、今は彩葉だ。
「何かわかったら掛け直す。じゃあな」
「うん、ありがとう」
電話を切ってベッドにポスンと顔を埋めた。そこから香る微かな彩葉の匂いに、やっと少し落ち着きを取り戻した。
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