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第117話 神崎side
居場所がない。
ふとそう感じて、今自分の立っている地面がぐにゃりと歪んだような感覚になった。
秀の手が届かない場所なんて、きっとこの世界には存在しない。
あいつは、悲しいくらいに俺を追ってくる。逃げられない。
「······疲れた」
もう空は暗くてどんよりと泣きだしそうな雲に覆われている。
次第に雨が降ってきて、体を濡らしていく。
繁華街の路地裏。膝を抱えて項垂れる。
こうしていると、日本に来たばかりの時のことを思い出した。頼る人もいなくて、こうしてなにかに怯え項垂れていたっけ。
その時眞宮組の親父が俺を見つけてくれた。あの救いの手がなかったら、俺はきっと野垂れ死にしていたと思う。
「──神崎」
「っ!」
雨が当たらなくなった。聞いたことのある声に名前を呼ばれて顔を上げる。
「探したよ」
「······立岡」
そこには傘をさして立っている立岡がいた。
「冴島が驚いてたよ。居なくなったから探してくれって」
「······探さなくていい。逃げただけだから」
そう言って俯くと、俺の目線と同じくらいになるように膝を折って、「どうしたの」と聞いてくる。
「何が怖くて、そんなに逃げてるの?」
「············」
「言ってくれないと、擁護できない。俺はこのままお前を連れて帰らないといけない。」
「······見逃してくれ」
「なら、教えて」
立岡の手が俺の頬を撫でた。立岡の手は暖かくて、冷えていた体に熱がよく伝わる。
「俺は、汚れたから······綺麗な秀には似合わない。それに······そもそも、もう愛されたくないんだ」
「······わかるよ。愛情って、怖いよね」
何だか、違和感を感じる。
じっと立岡を見ると、余計に。
「俺もね、愛する事は嫌いなんだ。愛情の分だけ憎しみが増えるから」
「······お、前」
「ん?何?」
今やっと、時々感じていた立岡に対する違和感の答えに気付いた。
「······お前は、誰だ」
「······さあ、誰でしょう?」
至近距離で見つめ合って、ニヒルに笑うその表情が不気味で仕方が無い。
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