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第118話

「誰だと思う?」 「······知らない」 「俺なら、お前の知ってる立岡にも見つからない場所に匿ってあげれるよ」 そいつの手が離れて、すっと立ち上がる。 「ついておいで。今お前を護れるのは俺だけだ。」 逃げ出したくて、差し出された手に自然と手が伸びた。そのまま強く握られて、どこかに連れて行かれる。 「お前と立岡は······双子なのか?」 「そうだよ」 その間に気になったことを聞けば、思っていたよりも素直に答えてくれた。 「因みに俺が兄であいつが弟ね」 「立岡は······秀に頼まれて、俺を探してるんだろ。裏切るようなことしていいのか」 「えー、お前が言う?恋人を裏切るようなことしておいて?」 「············」 尤もなことを言われて返事が出来ないでいると「ごめんごめん、意地悪しちゃったね」と楽しそうに言ってくる。 「今更どうともない。あいつはあいつの思うことをするし、俺もそうする。」 「あいつが困っても?」 「それはあいつの実力次第だろ。俺より先にお前を見つけたらよかった、それだけの話だ。」 車に乗せられて、暗い道を進んで行く。 「どこに行くんだ」 「どこに行きたい?」 「聞いたのは俺だぞ」 「あはは、そうだなぁ。どこでもいいけど、楽しいところがいいよね」 楽しいところってどこだ。悩んでいると「彩葉」と突然名前を呼ばれて驚いた。 「お前の名前綺麗だよね。俺の弟と真逆だよ」 「······立岡の、名前って······」 「あいつは(がい)って言うんだ。由来はね、あいつが邪魔だからだよ」 「は······?」 「可哀想でしょ。母親に疎まれててね、あからさまな漢字はダメだとか言って、凱なんだって。漢字は格好良くても由来がねぇ。」 そういえば立岡は母親を殺したいと言っていた気がする。今俺の横にいる立岡も、そう思っているのだろうか。 「お前は······?」 「え、何?名前?名前は律」 「律······、お前も母親を恨んでるのか?」 「恨む······?いや、恨むとは違うな。憎いだけかも」 違いはあまりわからなかったけど、こくこくと頷いた。 「俺は凱より疎まれなかったからなぁ」 「あいつはそんなに嫌われてたのか」 「まあねえ。虐待とかじゃないんだけどね。うーん、なんて言えばいいのかわかんないなぁ」 立岡も複雑で雁字搦(がんじがら)めの世界で生きてきたのか。そう思うといつも頼りっぱなしだったのが申し訳なく思えてくる。

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