「食べる？」 「要らない」 風呂から上がり、パソコンしか置かれていないデスクの前にあった椅子にだらしなく座った律。 チョコレートを差し出されて首を振った。 「ここに隠してやるのはいいんだけどさあ、お前はこれからどうしたいの？」 「······よくわからない」 「ふーん。まあ、乗り掛かった船だ。お前の気が済むまで付き合ってやるけど、凱とお前の彼氏のことだから、眞宮志乃には本当のこと言わないぞ」 「俺が、逃げたってことか？」 「そう」 チョコレートを食べて、頬を弛めた律はそのまま、パソコンの方に体を向けた。 「眞宮志乃は佐倉梓以外には冷酷だからなぁ。例え気にかけている幹部でも、逃げ出したり裏切ったりしたなら、待ってるのは取り調べだよ」 「······そうだろうな」 「逃げたことを誤魔化した奴等も、同じだろうね」 「······立岡も秀も、若と同級生だ。そこまではしないだろ」 「そう思う？」 嫌な笑みに、心臓が苦しくなる。 まるで、そんなわけがないだろうと言われているようで気分が悪い。 カラスはさっきまで仕事だったから疲れて眠ってしまっている。この状況を打開したくても、手段がない。 「言っただろ。佐倉梓以外には冷酷だって。あいつが優しくなれるのは唯一、彼だけなんだ。」 「······俺は、どうすればいい？」 信用していいのかわからない。 こいつの言葉を全ては飲み込めない。 「そんなの自分で考えな。······まあ、俺ならそんな頼りない彼氏は捨てて、他のやつに乗り換えるけどな。」 「············」 「お前は何から逃げてんの？彼氏なんだろ？つまり自分を愛してくれる人だ。愛情が怖いんだろ。」 目の前にナイフをちらつかされたような焦燥感。こいつにはなんでもお見通しなのか。 「お前が愛される自信がなくて、愛する自信もないような相手ならさっさと捨てろ。相手にも失礼だ。それで日常に戻ればいい。」 「そんな、こと······」 「できない？いや、できるだろ。しようとしないだけだ。結局お前は愛されたくて、でも自信が無いから逃げてるだけなんだよ。欲しいものを与えられて満足できないなら、初めから欲しがるな。」 律の言葉は正しいと思う。 だから、こんなに悔しくて、視界が滲んでいるんだ。 「愛される事を怖がるな。ちゃんと受け入れろ。」 心が揺れている。 目から溢れた涙が、床に落ちた。