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第126話

「帰りたくない」 「それはお前の彼氏のところにだろ?だから立岡のところに連れて行く」 「そんなの、秀を呼び出されるに決まってるだろ」 「我儘言ってるとお前の家に送るけど?そっちの方が困るんじゃない?彼氏がそこにいる可能性の方がでかいからなぁ」 無理矢理車に押し込められて、車が急発進した。すぐに立岡の住むマンションが見えてきて、心臓がうるさく音を立てる。 「さっき律も言ってただろ。終わらせるなら早めがいい。自信が無いなら早く捨てろ」 「······お前に言われても響かない」 「俺にとっても反吐が出そうな言葉だ。」 わざとらしく「うぇっ」と嘔吐いたカラスを無視をした。 立岡のマンションの下に着くとそこには既に立岡の姿があって、カラスが先に車から降りて何かを話している。 俺も降りると、立岡から鋭い視線が向けられて、さっと目を逸らした。 「怒ってやるなよ、怖くて仕方なかったんだ。お前ならわかるだろ。」 「······早く消えろ」 「えー、送り届けてやったのにそんなこと言う?びっくりだぜ本当。じゃあな神崎、あいつが言ったこと、忘れるなよ」 忘れたくたって忘れられない。 秀との間にある俺が作った見えない壁を、壊すべきか、はっきりと見えるようにするべきか。 「──神崎、早く入るよ」 「······立岡、俺は······自信が無いんだ」 マンションに入ろうとしていた立岡が足を止めて、突っ立ったままの俺を振り返る。 「愛される自信が無い。愛情をもらったところで満足できない。だから──」 「だから冴島を捨てるって?」 「······ずっとこうして逃げるのは、秀に悪いから」 「あのさ······ああもう、いいよ。わかった」 踵を返した立岡はマンションに入っていく。俺はそれを追いかけることはせずに、早く別れを告げようと家の方に足をむける。 会いたくない。会ってしまえば伝えないといけない言葉がある。 そこで俺は時間を止めて、きっとまた歩けなくなる。 それでも足を動かすのは、謝らないといけないからだ。 こんな汚れきった体と、面倒な俺に時間を割かせてしまってごめんって。

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