128 / 188
第128話
彩葉に追い出されるようにして家から出た。
途端、今までの慌ただしかったのは全部夢なんじゃないかと思えてきて、渇いた笑いを零す。
「······帰ろう」
ちゃんと、元の日常に。
別れた理由は納得はできなかったけれど、あんな表情をされちゃ何も言えない。
あんなに綺麗な人に、この先出会えることは無いだろう。容姿はもちろん、中身だって。
彩葉には、早く新しい心の拠り所ができて、1人で抱え込むことがないようにしてほしい。
いつだって俺が支えていたかったけれど、こうなってしまったからには仕方がない。
もっと早く、ちゃんと対処していればよかった。
後悔ばかりが溢れてきては、視界を滲ませる。
こんなにも好きなのに、それが彩葉を苦しめる。
「······ごめんね」
自宅に着いて、零した声は力無く震えていた。
***
あの日から数日経った。
立岡が言うには、彩葉はちゃんと病院に戻って抜糸をし、快調に向かっているらしい。
「······はぁ」
俺はと言うと、最近は何もやる気が出なくて毎晩酒を浴びるように飲んでは、いつの間にか眠り朝を迎える生活を送っていた。
「ああ、くそ······」
無性にイライラして、それを睡眠で誤魔化す。
「彩葉に会いたい······」
でも上手くはいかずに、ただ時間を無駄に過ごすだけ。
志乃にはこういう理由で彩葉と別れたと伝えた。だから彩葉を見ることが出来ないって。そうしたらただ一言「そうか」とだけ言葉が返ってきて志乃らしいなと思った。
俺はまだ何も整理がついてないのに。
身体がだるくて、外に出るのも億劫だ。
考えるのは彩葉のことだけで、本当に女々しいなと思う。
ともだちにシェアしよう!