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第129話 神崎side

数日経てば少し荒ぶっていた心も落ち着いてきたと思う。 自分の家なのに、秀の物があるから、それを見る度に自己嫌悪に陥りそうにはなるけれど、それが俺のした事の対価なら仕方が無いのかもしれない。 「······まただ」 けれど、自傷行為をする回数が増えてしまった。でも、これも全て自分のせいだから、もういい。 また誰かに頼って、誰かが傷つくくらいなら、俺が傷ついている方がずっとマシだ。 「神崎、お前顔死んでるよ」 「······失礼だな」 仕事にも復帰して、幹部室で黙々と仕事をこなす。相馬には気味悪がられて、速水は俺が仕事を進んでするから嬉しそうで、夏目は「大丈夫か?」と心配してくる。 「体調悪いんだろ。少し休めよ」 「いい。」 「神崎が相馬がやらない仕事までしてくれるのは助かるけど、体壊したら意味ねえよ。」 けれどそれが暫く続くと速水まで俺を心配するようになった。 「何かあったのか?」 「······何も」 そんな話をしていると、幹部室に若がやってきた。全員が立ち上がって軽く頭を下げる。 「神崎、ちょっと来い。」 「はい」 何かあったのだろうか。 もしかして、俺のせいで秀が······いや、そんな自分を過大評価するのはやめよう。秀は俺なんか居なくても生きていける。 「腕を出せ」 「え······」 若の部屋までやって来ると突然そう言われた。傷のついていない腕を出すと「違う」と言われて、仕方なく反対の腕を出す。 「······俺はこれを止めるつもりは無い。俺が今これを止めたところで、これから先はそうするつもりがないからだ。」 「はい。わかっています。」 さっと腕を隠して、俯いた。 自分でも、無意識でしたしまう行為を止められない。 「けど、お前には今だけじゃなくて、これから先も支えてくれる相手がいたはずだ。」 「······そんなの、いません。いたとしても、与えられてばかりで返せやしない。」 そんな不公平な事はしたくない。 同じだけのものを返したくて、でもそれが出来ないから離れたんだ。 俺は汚くて、そんな俺を愛するなんて無意味な事をして欲しくなかった。 「······冴島はよく感情を見せるようになった。」 「············」 「俺はそれが嬉しかった。いつでも人の良さそうな笑顔で話していたのが、今じゃ俺に悩みも相談してくるし、怒鳴ったり、焦ったりもするんだ。」 だからなんだって言うんだ。 俺と居る時はいつもそうだった。気に食わないことがあれば表情を曇らせるし、照れたり、怒ったり、いろんな表情を見せてきた。 「お前は与えられてばかりって言うけど、そんなこと無いんだって、わかるだろ。」 「······わかりません。」 「なら、それでもいい。ただ、今の冴島は、お前から与えられた物を全部失くした。元の冴島に戻った。いや、もしかしたらもっと劣化したかもしれない。」 俺のせいでそうなったのかもしれないなんて一瞬でも思ったことが恥ずかしい。 そんな力、俺にはないのに。

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