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第130話
地面がぐにゃりと歪んだ。
自力で立ってられなくなって、置いてあったソファの背もたれを掴む。
「神崎、どうした」
「······すみません、ちょっと、眩暈がして」
「······お前、もう帰って休め。ずっと仕事してるって夏目から聞いた。自力で帰れなさそうなら送ってもらえ」
「いえ、あの······大丈夫です。」
眩暈が治まり、手を離した。
「もう暫くは抗争も何も無いと思うから、ちゃんと休め。これは命令だ。」
「······わかりました。」
命令なら、従う他ない。
「失礼しました」と告げて部屋から出る。
幹部室に行くまでも何度も目の前が白くなる。やっとの気持ちで着いたそこ。ソファに倒れ込むと夏目が寄ってきて「大丈夫?」と声を掛けてくる。
「······大丈夫」
「さっき若から電話が来て、お前を送れって。車、鍵貸して」
「今動けない」
寝ころんだら動けなくなった。ああもう、悔しい。
すぐに弱ってしまう体と心なんて無くなってしまえばいい。
「神崎?」
「······消えたい」
「············」
気付けばぽつりと言葉を零していた。聞かれたくなかった本音を、目の前にいた夏目が聞いていないわけがなくて、口を閉じた時にはもう遅く、夏目の手が俺の手を掴んだ。
「お前、相当疲れてるみたいだよ。早く帰ってゆっくり休んで。」
「······俺、最近ずっと休んでる。」
「気にしなくていいよ。俺がしんどかった時、お前や速水や相馬が代わりに仕事してくれたから。今度は俺がお前のフォローするよ」
「······そんなの要らない」
全部自分で解決できるはずなんだ。
それなのに。こんなはずじゃないのに。
「なら、俺が強制的にそうさせてもらうよ。相馬、神崎運ぶの手伝って」
「え、俺ぇ?······いいけどさぁ!」
余計なことしやがって。
いつもよりずっと体に力が入らなくて、相馬に支えられて車まで歩く。
「こいつ体熱すぎ。また熱か?」
「それだけ体を酷使してたんだろ。相馬はその車乗って着いてきて」
「運転?俺に任せていいの?ボコボコに······」
「それ、若が俺にくれたやつ。」
「······安全運転を心掛けます。」
後部席に寝かされて、そのまま目を閉じた。
車が動いてその振動が気持ち悪い。
「夏目」
「ん?何?」
「······吐きそう」
「えっ!ま、待って!袋無い!?」
「我慢する」
いろんな人に迷惑をかけてしまっている。
嫌だな。親父のことも、もう関わりたくないと放棄した。だからきっと誰かが片付けてくれているんだろうけど、それも申し訳なく感じる。
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