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第133話
彩葉の住むマンションについた。
ドキドキと胸がうるさい。家まで行って鍵を刺し、ゆっくりと部屋に上がる。
「お邪魔します······」
そう言いながら玄関で靴を脱いで廊下に上がった。暗いリビングに電気を灯し、そこには姿がなかったから寝室に足を運ぶ。
「······彩葉」
そこにはベッドで眠っている彩葉がいた。顔色が悪くて、そっと額に触れると熱くて悲しくなる。
「無理しないで······」
診察と処置をして、彩葉の手を掴んだ。
いつもはずっとこの距離だったのに、今じゃ触れても遠く感じてしまう。
「······秀」
「え······」
物思いに耽っていると、ハッキリと名前を呼ばれた。そして俺をぼんやりと見ている彩葉と目が合う。彩葉の方からも手が握られて、ドキッとした。
「秀······ごめ、ん······」
「何が······?」
熱のせいで意識がぼんやりとしているんだろう。これが現実かどうかの区別もついているかは分からない。
「俺······自信、なくて······、でも、本当は一緒に······いてほしくて······」
ポロポロと彩葉の口から落ちていく言葉に目を見開く。本当はそう思っていてくれたのか。嬉しいのか、悔しいのか、涙が視界をぼやかす。
「俺も、その言葉を言わせてあげられなくてごめんね」
「······何で、秀が謝るんだよ」
さっき彩葉を診た時、手首に走る無数の傷を見た。それほどまでに追い詰められているのに、本音を言わせてあげられなかった。
「これ、痛いね」
「······痛くない。でも······もう、したくないな」
「そうだね。彩葉······愛してるよ」
そう言うと小さく笑った彩葉は、そのまま眠ってしまった。手は繋がれたままで、解くことなんてしたくない。
ずるい事ってわかっていながら、そっと唇にキスをする。ああ、好きだ。
「離れたくないよ······」
もう1度、隣にいさせて。
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