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第134話
勝手に家に上がって、勝手に治療をしたあとで思うのもおかしいけれど、これはある意味の不法侵入なのか?
彩葉に通報されても何も言えないなぁと思ったけれど、そうなると彩葉自身も面倒になるし、そんなことはしないか。
手を解きたくないに気持ちに鞭を打って、そっと手を離す。それから彩葉の腕に打っていた点滴を抜いて、片付けをした。
彩葉が起きていないうちに帰った方がいいのかもしれない。体調が悪いのに目が覚めて俺がいたらパニックになりかねない。
「彩葉······またね」
返事は帰ってくることは無いけれど、名残惜しさにもう1度キスをして、離れる。
そして静かに家を出た。
久々に彩葉に触れた喜びにまだドキドキとしている。少しルンルンとした気分で帰ろうとしていると携帯が鳴った。
「はい、冴島です」
「あ、秀ー!お願いがあって!」
「······どなたですか」
「ひっどい。私よ、あんたの元カノの歩未!」
そう言われて歩未の顔を思い出した。ああ、あいつか、わかったぞ。
「うん、どうしたの?」
「あんた医者になったんでしょ?しかも精神面の治療もできるって······ちょっと相談があって、話聞いて欲しいの」
「あー······今から?」
「まさか。もう夜よ。明日空いてない?」
明日は空いている。でも申し訳ないけれど歩未にそんなに時間を割きたくなくて、「1時間だけね」と返事をした。
「助かる!私の家に来てよ」
「うん、住所送っといてね」
「車で来る?」
「あー、そうしようかな」
電話を終えて小さく溜息が漏れた。
今は彩葉の治療に専念したいという思いを飲み込んで、送られてきた住所を見ながら少し寂しくなった。
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