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第135話
翌日、歩未の家に行くと熱烈に歓迎された。
「ずっと誰かに相談したいことがあって、でも出来なくて······」
「うん」
歩未は話をしている途中にポロポロと泣きだした。
「だから、辛くてね······。でも、病院に行くのにも勇気がいって中々踏み出せなくて、そしたらあんたが医者になったよって聞いて······」
「うん、それは辛かったね。」
突然朝起きれなくなって、無気力で何も出来なくなってしまったらしい。そんな自分に嫌気がさして、辛くなったんだとか。
「でも歩未は俺に電話してくれたよね。何も出来ないわけじゃないよ。前に進もうって、頑張ってくれたよ」
「ぅ······だ、だって、ずっとこのままじゃ······私何も出来ない人間になるかもしれない······」
「······何も出来ないって思ってるその時間を、何もしない時間なんだって考えてみるのはどう?それか、その時間はただ休憩する時間だって思うのは?」
ああ、彩葉ともこうして真正面から向き合えばよかったんだろうな。
歩未の顔色は暗かったものから、少しずつ明るくなっていく。
「周りの事は気にしないで、自分を最優先に考えてみよう?」
「う、ん」
「それでも辛くて、悪い方向に考えてしまうようなら、俺はいつでも少しでも楽になれるように協力するよ。」
笑いかけると歩未は小さく微笑んだ。
「秀······私、やってみる」
「うん。無理しない程度にね」
「······あんたが彼氏だったらよかったなぁ。」
「やめておいた方がいいよ。この前別れたばかりなんだ。俺にはちゃんと支えることが出来なかったみたいでね。」
「え、秀が支えられないって何?あんたみたいに包容力ある人滅多にいないと思うんだけど。」
その包容力ってやつが、誰かを苦しめるなんて、普通は思わないよな。
「それがダメだったんだと思う」
「······いろんな人がいて難しいわね」
「そうだね。」
しみじみとそう感じていると「そうだ!」と歩未が大きな声を出す。
「相談するのって普通お金がかかるんだよね?あの、お金、いくら?これでいけるかなぁ?」
1万円札を出てきた歩未に首を左右に振った。
「そんなのいいよ。友達として相談に乗っただけだから。」
「そんなの悪いよ!」
「だって俺、元からお金もらう気で来てないよ。俺の話も聞いてもらったから、ね?」
そう言って笑うと、渋々とお金を財布に戻した。
「あの······また話聞いてもらってもいい······?」
「うん。その時はまた俺の話も聞いてくれる?」
「もちろんよ」
柔く笑った歩未に、少し心が軽くなった。
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