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第137話
少し日が経って、やっと熱が下がった。
仕事に向かい、早速その日の夜は見回りをすることになって、部下を連れて夜の街を歩く。
「神崎さん、体はもう無事なんですか」
「ああ」
部下に聞かれて頷いた。時々こうして見回りをするけれど、この街はまだ静かな方だから特に何かが起こっていることは滅多にない。
だからか、余計にそれが気になった。
見たことのある車だ。
いつ見たんだっけ。
「神崎さん、どうかしました?」
「······いや」
ああ、あれはきっと秀の車だ。
こんな時間にまだ外にいるなんて。危ないから早く帰れって伝えたいけれど、そうはいかない。
つい視線がそこに向いて、少し先を歩き振り返る。
「え······」
間違えるはずがない。どこかから出てきた秀が、女と手を繋いでいる。それから、抱きしめあった後に車に乗りこんだ。
「神崎さん?何かあるんですか?」
「······あ、いや、悪い」
「······あの車が気になるんですか?」
視線を外せないでいると、秀と女が顔を近づけてキスをした。
ああ、ガラガラと何とか縁どっていた心が崩れた音が聞こえる。
「······いや、いいんだ。行こう」
「え、はい、わかりました。」
左手首を掻き毟った。治りかけていたそこからまた血が出てくる。
「神崎さん、血が······。」
「······いいんだ」
痛い、痛い。
胸が痛い。
逃げるように足を動かして、立ち止まり煙草を口に咥えた。すかさず日を差し出してくる部下に礼を言って、煙を吐き出す。
「······帰るか」
そうして乗ってきた車の方に足をむける。
「彩葉っ!」
「っ!」
そんな時、名前を呼ばれて体が大きく揺れた。
なかなか振り返れない。
「あの······冴島さんが······」
遠慮がちにそう伝えてくる部下。組全体で世話になっている医者だから、部下達は秀を知っている。
「······いい、帰るぞ」
「彩葉っ!」
無視をして足を進めようとすると、傷ついている方の手首を掴まれて、「いっ!」とつい声が漏れた。
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