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第138話
「彩葉、無視しないで······って、血、出てる······」
「っ、離せ!」
手を振り払って、掴まれた手首を右手で覆った。
「それ、手当しないと」
「うるさいっ」
思ったよりも大きい声が出て、秀はもちろん、部下達も驚いている。
「······お前ら、先に行ってろ」
そう伝えると部下達は先に車の方に向かう。俺はやっと秀に向き合って、強く睨みつけた。
「彩葉、手を······」
「相手が見つかったんだな」
「え······?」
「······女、いただろ。お前は優しいから、相手のこともきっと幸せにできるよ。俺になんかもう構わなくていいから、早く行ってやれ」
そう言うと秀の顔色が一気に青白くなった。
目を見開いて俺を見ている。
「ち、違うっ」
「違う······?何が。待たせてるんだろ、早く行けよ。」
精一杯の強がりをした。けれど早くここから消えないとおかしくなりそうだ。
「······じゃあな」
「彩葉、違うんだって!あの子は今話を聞いていただけでっ」
「そんな奴とハグしたりキスしたりしねえだろうが」
「それは······ハグはしたよ。元々彼女は俺の恋人で······でも、キスは向こうがいきなり」
どうしてそんなに否定をするんだろう。俺の事なんてもう忘れた方がずっと幸せなはずなのに。
「······もうどっちでもいい。」
否定してくれない方が、俺の気持ちに踏ん切りがつきそうなのに。
「聞いて。俺はまだ、君以外に好きだって感情を覚えたことがない。信じて」
「それは、この先俺以外の奴にも感じるよ。きっともっと、確実で······」
「泣きながら言われたって説得力ないよ。」
そう言われて初めて、今自分が泣いていることを知った。ぐっと涙を拭って、また秀を見る。
「頼む、もう行ってくれ。俺が······俺が苦しくなるんだ。」
そう言って軽く口角を上げた。多分、ちゃんと笑えたと思う。
秀はショックを受けたような表情になり、それから力なく頷いた。
「······俺はちゃんと、証明してみせるよ。」
その強い言葉を、拒否することはできなかった。
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