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第140話 冴島side

見られてしまった。歩未といたところを。 「秀、どうしたの?急に行っちゃったからビックリした!」 「············」 「······さっき、勝手にキスしたこと、怒ったの······?」 歩未と2人で話をするついでに食事をした。俺は車だったから酒は飲まずに、けれど歩未は飲んで、少し酔っ払ってしまったみたいだ。 そろそろいい時間だからと、店から出ると歩未が巫山戯て抱きついてきて、これくらいならいいかと俺も歩未の背中に手を回した。 「ねえ、私、酔ってる。」 「見ればわかるよ」 車に乗せて、シートベルトを付けようとしたら、手が伸びてきて俺の顔を包み無理矢理歩未の方に向けさせられて、そのままキスをされる。 こんなキスには何とも思わない。 けれど、唇が離れて前を向くと、逃げるように歩いて行く金髪が見えた。 その周りを囲む強面のスーツを着た男達。 あれは間違いなく彩葉だ。 咄嗟に彩葉を追いかけた。 何度名前を呼んでも無視されるけれど、諦めずに手を伸ばした。 やっと彩葉の手首を捕まえたけれど、俺を拒絶する言葉に心が沈んでいく。 結局離れて行ってしまった彩葉が、どうか自分のもとに返ってくるように祈りながら、意気地のない俺は今も歩未の隣に座っている。 「······歩未には怒ってないよ。」 「何か、あったの?」 「恋人がね、いたんだ。」 「え?別れたんでしょ?」 そう言われて腹が立ったけど、その様子は見せないように1度頷いた。 「でも、好きなんだ。」 「諦めて、次の恋に行きなよ。」 「······次恋人になった子が可哀想だよ。俺はずっと引き摺るからね。」 彩葉に証明するって言ったけど、どうすれば伝わるのかはわからない。 「帰ろうか。」 車を発進させ、歩未を家まで送る。 自宅についた頃には、やっぱり彩葉の事で頭が埋め尽くされていた。

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