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第142話
そして少しすると立岡がやって来た。
何故か怪我をしていて、外で喧嘩でもしてきたのかと赤くなった頬に手を伸ばす。
「殴られた?」
「うん。でも倍にして返した。」
「そう。あんまり喧嘩はしない方がいいと思うよ。」
「今更無理だろ。」
口の端が切れて血が滲んでいる。すぐに消毒をして絆創膏を貼ってやった。
「立岡はそうやって自分を追い詰めなくていいんだよ。」
「······でも、カラス達の方が上手だったんだ。もっと早くに迎えに行けたはずなのに。それで神崎が自分は汚れたからってお前から離れるなら、俺の責任だよ。」
「違うよ、誰も悪くない。」
「俺が悪いんだよ。」
立岡は冷静に物事を見て判断するから難しい。俺もそうしているつもりだけど、情報屋という仕事柄、1つも見落とさないようにしているんだと思う。
「お前に言うべきだったんだ。それか志乃にもね。初めに神崎が拉致された場所は元々、神崎の思い出の場所だ。そこにはチャカも隠してあった。一緒にチャカを取りに行った時に、場所を知らせていればよかった。」
「······過ぎたことを悔やんだって変わらないよ。今教えてくれたからそれでいい。次何かあった時すぐにそこに探しに行ける。」
「······俺はね、神崎と過ごしてる時間が好きだったんだよ。今でも1番の友達だと思う。だから、そんな神崎を少しでも苦しめてしまったのが嫌なんだ。」
机にうつ伏せた立岡がそのまま小さく震えだした。
「立岡······?」
「ご、めん······。情けない顔してるから見ないで······。」
立岡が泣くのなんて珍しい。ティッシュとゴミ箱、それからお茶を近くに置いてあげて、俺は少しだけ離れた。
立岡はプライドが高いから、慰められたりするのはあまり好きじゃないだろうと思って。
「今日はこのまま泊まりな。ゆっくり休んで。」
「······うん、ありがとう。」
鼻をかんだ立岡が、涙声で返事をする。
「何も考えなくていい、例えばどんなに変な日本語でもちゃんとお前の言葉を聞いてるから、いっぱい吐き出して。」
「っ······」
唇を噛んだ立岡に、罪悪感が募っていく。
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