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第143話

立岡がポツポツと言葉を落としていく。 ただ辛いとか、悲しいとか、嬉しかったとか、そんな単語を呟くだけでも少しは気持ちが整理される。 「眠れないんだ」 「······それは、何でかな。」 「多分、考えすぎてる。わかってるけど止められない。」 ほとんど放心状態で、でも俺の問いには答えてくれる。 「今は、眠たい?」 「······うん、眠い。でも、寝てる暇があるなら、律やカラスを上回る力が欲しい。」 「少し、拘りすぎてない?」 言っていいのか悩んだけれど、引いてばかりじゃダメだ。少し突っ込んだことを聞けば立岡は自虐気味に笑う。 「そうなんだ。俺が拘りすぎてるだけ。あいつらは気にもしてない。でも、そうしてないと保てない。」 「それは、お前っていう人格が?」 「ああ。俺にはずっと目標にしている事があって、その目標を達成する為には、そうしていないといけないんだ。」 彩葉もいろいろと難しいけれど、立岡は複雑で、全てが見えていないから余計に困難だ。 「まずは眠れるようになりたいね。そうしたら心は自然と休まるから。」 「······そうだね。お前にこの話をするのはどうかと思うけど······神崎が居た時はね、眠れたんだよ。」 「え?」 彩葉がいた時っていうのは······、俺と彩葉が立岡のことで喧嘩をした時のことだろうか。 「何か、考える間もなく寝てたんだよね。おかげで体が楽だった。」 「······一応聞くけど、何もしてないよね?」 「してないよ。俺と神崎は友達だもん。」 安心して小さく息を吐くと、立岡に笑われた。それがちょっと悔しい。 「まあ、なんでもいいけどさ、俺からのお願い聞いて。」 「何······?」 突然真顔になった立岡を見ると、話を聞く以外に何も出来ない。 「神崎とヨリ戻して。今すぐじゃなくていい、2人の気持ちが落ち着いたらでいいんだ。」 「······そうしたいのは山々なんだけどね」 「神崎は俺と同じで考えすぎるんだ。あいつのこと、助けてやってよ。」 誰かの事を俺に頼んでくるなんて初めてだった。立岡にとって彩葉はそれだけ大切な友達らしい。 「うん、約束するよ。」 「······ありがとう。」 俺も彩葉を助けたいから。それがただの自己満足であったとしても。

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