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第147話
「お帰り。大変だったんだね。」
「······お前、まだ居たのか。」
幹部室に戻ると夏目が居た。
もう深夜なのに、まだ帰っていなかったようだ。
「うん。相馬がデスクワークは嫌だって放ったらかしで帰っちゃって。」
「半分やるよ」
「ううん、もう終わるから大丈夫。それより立岡さんは?」
「熱が高いんだ。多分疲労のせいって。あいつ眠れないって前から言ってたから。」
「······昔からよくわからない人だったけど、あの人も大変なんだね。」
頷きながら、カラスのことを思い出した。
そういえばあいつはあの場所で何をしていたんだろう。
立岡に不利な事だけはしてほしくなくて、夏目に「悪い」と謝って部屋を出て、律に電話をかけた。
直ぐに電話に出た律は、酒でも飲んでるのかと思う程に陽気だった。
「はいはーい!何?」
「カラスは?」
「今隣にいるけど?代わる?」
「······さっきカラスを見た。何してたのか教えてくれ。立岡をじっと見てるようだったから。」
「あ!それかぁ。いいよ、俺が教えてあげるよ。あっ、こら、触るな!」
どうやら向こうではカラスが律にちょっかいを出しているらしい。
少しすると「悪い悪い」と言い、まだ少し弾ませた声音のまま話し出した。
「えっとね、今凱が相手してる奴、結構危ないんだよ。」
「······それは、リスクが高い取引ってことか?」
「んー、まあそうだね。だから俺達が監視してる。」
「監視?」
それは、取引相手をなのか、立岡をなのかわからない。そしてどちらかを監視したところでカラスや律にメリットなんてない筈だ。
「それは······誰を?何の為に?」
「え、普通に考えて凱をでしょ。あまりに危なそうだったら俺達が取引を横取りする。凱より腕は良いし料金も安くしてやる。」
「······何でだよ。また立岡の邪魔をするつもりなのか?」
「は?え、待ってよ。俺と凱って双子だよ?それを忘れてる?」
どうしても点と点が繋がらない。
頭を悩ませていると、「家族だよ!?」と大声で伝えてきた。
「わかってるよ」
「家族が危険な目に遭ってたら助けるのが普通じゃない?ほら、俺兄貴だし。」
「······は?」
「は?じゃないよ。馬鹿なの?」
今度こそよくわからない。
一体どういうことなんだ。
「お前の方がだろ。それなら何でカラスの味方についてんだよ。元から立岡についててやれば······」
「それはあまりにもスリルがないからね。却下。拒否します。」
ケラケラと笑う律の声に、余計に頭の中がぐちゃぐちゃになる。
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