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第148話

「俺達は凱の邪魔をするよ。でもそれは嫌いだからじゃない。むしろ俺は凱の事好きだよ。」 「じゃあ何で······」 「あいつは母親を恨んでる。俺も前まではそうだったんだけど、色々あって今はもう考えないようにしてるんだ。でも凱にとっての母親への恨みは生きるための糧になってるんだよ。」 「······恨んでるのは知ってる。前に本人から聞いた。でも、だからってお前がそういう行動をとる意味がわからない。」 わざわざ、そんなことをしなくてもいい。家族がそばにいることは、安心に繋がるんじゃないのか。 「俺達の母親は、俺達を売った。それを凱には忘れさせないように、俺とカラスが同じような事をしてるんだ。母親をとことん恨んで復讐する事、それこそがあいつの生きてる意味だから。」 「そんなこと······」 「ないって?いやいや、それがあるんだよ。じゃなきゃ今頃母親と同じ職業に就いてないって。」 成程、なら立岡は情報や出会った母親に取引の材料として売られたと考えるのが正しいみたいだ。 「あいつは知らないだろうけどね。まあ、知られないようにしてるし。あいつが俺達に引け目を感じてるのは、俺にとっては都合がいいよ。」 そう律が話した後、電話の向こうが騒がしくなった。 「あ、やめろってば······っん!」 「神崎?悪いけど、長電話はお断りだから。······あー、逃げんなってば!」 最後にカラスがそう言ってプツッと電話が切れた。 あいつらの関係はなんでもいいけど、電話の途中に"そういう事"をするのはやめて欲しい。 「神崎、帰んないの?」 「え······いや、帰るよ。」 幹部室からひょこっと顔を出した夏目。どうやらそろそろ帰るようで、その前に片付けた仕事を若の部屋に置きに行くらしい。 「送ろうか?あ、てかお前の車壊れたんだってな。新しいの買ったの?」 「いや、2台持ってたから、今は無事な方に乗ってる。」 「えー、金持ちだね。」 うざったそうな顔でそういった夏目に、同じような表情を返すと今度は笑われた。 夏目は以前よりおおらかになったと思う。纏ってる空気も和らいで、話しやすくなった。 「じゃあね、お疲れ様。」 「ああ、お疲れ。」 軽く手を振って、幹部室に入って荷物を持ち、その後すぐに家に帰った。

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