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第149話 冴島side
今日は彩葉がやって来る。
入念に部屋を掃除して、いつ来てもらってもバッチリな程、完璧に準備が出来た。
「これで来なかったらショックだな······。」
信じてないわけじゃない。
彩葉のことを分かってるからこそ、その行動を取られてもおかしくないよなと思う。
「仕事あるだろうし、遅くなるなら······泊まってくれたり、するかな······。」
そしたら少し許された気もして気が楽なんだけどなぁ。
ソワソワしてると、インターホンが鳴った。えっ!?とモニターを見るとそこには彩葉がいて、仕事は!?と予想と全く違う出来事にわたわたしてしまう。
急いで玄関に行って鍵を開けた。
「······ちゃんと確認してから開けろよ。眞宮と関係が有るんだから、少しは警戒しろ。」
「あ······ごめん、咄嗟に······。」
そして早々に怒られてしまった。
予想外が連続して、とにかく笑ってみせると彩葉の表情が少し緩まった。緊張していたのは彩葉も同じみたいだ。
「あ、上がって?」
「······お邪魔します。」
部屋に上がってリビングに移動して、珈琲を入れて席に着いた。
「······昨日は、遅かったのにありがとう。立岡は今朝起きて熱も下がってたから帰った。」
「うん。ゆっくり休むように伝えておいてね。······あ、そういえば眠れないって言ってたっけ?」
「ああ、元から眠れないって。なのに俺のせいで立岡にまた負担がかかって······」
「彩葉は何もしてないでしょ?」
自分を責めるような言い方をするから、言葉を被せるようにして話してしまった。彩葉の事になると、何も考えないで行動してしまうから、ただ本当に必死なんだと思う。
「······立岡の兄貴に会った。それで言われたんだ。俺達が別れてから、立岡が荒れてるって。」
「······立岡は自分を責めてたよ。もっと早く助けに行けたらって。······ねえ、もう、自分を責めるのは辞めよう。俺達は誰も悪くないんだ。逆に言ってしまえば、皆、自分を責める事で楽になろうとしてるんだよ。」
「わかってる。自分を責めて、それで逃げようとしてるのも。」
彩葉が落ち着いた声音でそう言って、一息吐くと俺をじっと見た。
「皆、楽になりたいんだ。でもどうしたらそうなれるのか、今してる方法以外にやり方がわからない。でも俺はお前に縋ることができた。」
ドキッとして、言葉を待つ。
彩葉が伝えてくれることは、1文字も漏らさずに拾いたい。
「そうしていれば楽だった。でも······結局、そのせいでお前を傷つけるかもしれない。お前を汚してしまうかもしれない。それが怖い。」
「俺は彩葉がくれるものは全部受け止めたいよ。例えばそれが傷だったとしても、彩葉はそこで止めたりしないでしょ?ちゃんと、それが癒えるまで支えてくれるはずだ。」
そう言うと、彩葉は綺麗な目を歪めた。
思わず見蕩れそうになる彩葉を、今度こそ手放さなくて済むように、必死に手を伸ばす。
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