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第150話
「俺はそうならないようにしたいんだ。お前が傷つくくらいなら、離れる。」
「彩葉がそうして決めるなら、俺にも決めさせて欲しい。離れるなんて選択肢は今すぐに消して。」
遠慮なく言葉を投げる。感情的になっちゃダメだってわかってるけど、どうにも彩葉のことになると無理だ。
「俺は······俺は君がいなくなってから何をするにも充実しないんだ。彩葉といた時間が1番自分らしく生きていられたんだよ。」
「そ、んな······そんなこと、ないだろ。この前いた女は?あの女とでも······」
そうだ、今日はその話をして勘違いを解きたかったんだ。
「あれは、確かに昔付き合ったことがある子だけど、この前は医者と患者、それから友達として会っていただけなんだ。向こうが酔っ払っちゃって······。」
「それで、キスしたのか?」
「······うん、それは事実だ。でも気持ちなんて無い。」
どうしたら信じてくれるのかはわからないけど、俺は真実を伝えることしか出来ない。そういうと彩葉は唇を噛んで、下を向いた。
「お前が······その女がキスしてるところ見て、死ぬ程腹が立った。あんなのは久しぶりだった。それから、自分に自信がなくて、すごく怖くなった。」
ゆっくりと顔を上げて俺をじっと見る。その目は少し涙で濡れていた。
「愛されることが怖くて、なのに······お前を取られることも嫌で、自分にこんな感情があるんだって、初めて知った。」
それを聞いて素直に嬉しかった。
そう言ってくれるなんて思ってもいなかったから。
「触りたいって思う。俺のものにしたいって。でも······どうしても、愛される自信が無い。」
「その自信はさ、一緒に過ごしている間に、一緒に培っていくことはできないかな······?」
「お前に迷惑がかかるから······」
「ううん。迷惑なんかじゃない。それは俺の好きでしたい事だよ。」
席を立って彩葉の前に同じ目線になるように膝を折って、彩葉両手をそっと包み、じっと目を見る。
「もう1回、一緒に歩いてみよう?」
「······め、面倒になったら、言ってくれ。」
「彩葉、そうじゃないでしょ?」
マイナスな考えは、今は要らない。
柔く笑ってみせると、彩葉も目を細めて、その瞬間に涙が零れる。光が反射して、綺麗なそれが頬を伝う。
「もう1回、秀と······歩かせてくれ。」
その返事を聞いて立ち上がり、彩葉の唇に自らのそれを重ねた。
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