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第163話
朝起きると彩葉の綺麗な顔がすぐ側にあった。
「綺麗、だなぁ······。」
鼻に、頬に、額にキスをした。
最後に瞼にキスをすると、ゆっくりと目が開いて綺麗な水色と灰色が俺を見る。
「終わりか······?」
「え······」
「······もういい。」
くるんっと寝返りをうった彩葉。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
「彩葉」
「······キスってのは、口にするんだぞ。」
「ふふっ、わかってるよ。でもそっち向いてちゃ出来ないよ。」
そう言うと俺の方に体を向ける。素直で可愛いなぁと思いながらキスをすると、目を細めて口角を緩く上げる。
「起きれる?お風呂入ろう。」
「······水」
「あ、頭痛い?昨日凄い酔ってたもんね。」
「うん」
直ぐにキッチンに行って冷蔵庫からまだ未開封のペットボトルに入った水を取り出した。
部屋に持っていき蓋を開けて、彩葉の上半身を軽く起こして口元でペットボトルを傾ける。
大人しくごくごくと飲んで、もういいかな、とペットボトルを口元から離すと「はぁ······」と彩葉が息を吐いた。
「別に、自分で飲めたのに。」
「甘やかしたいんだよ。」
「あっそ。風呂······起こして。」
そのまま彩葉の体を起こして、風呂場に連れて行く。体を温かいお湯で流し、髪を洗ってあげるとまた眠りそうになっていて、目を閉じて無防備な彩葉に、またキスをすると目を開けて「キスが好きだな」と言ってくる。
「彩葉とするのが好きなんだよ。」
「ふーん。前の女とは違うか?」
きっとこの前の歩美のことを言ってる。
彩葉は怒ってないってわかってるけど、その話をされると俺もムキになっちゃう。
「だから、あれは······気持ちなんて入ってないもん。彩葉とする時しか気持ちいいって思わないよ。」
「いじけるなよ。······悪い、からかいすぎた。」
首に腕が回されて、彩葉の方からキスをしてくる。
「お前が俺をどれだけ好きなのかは、ちゃんと知ってるつもり。」
「······からかうなんて酷いよ。」
「たまにはいいだろ。」
「······彩葉も子供っぽいところあるんだね。こんなに綺麗だからいつでも大人だと思ってた。」
「綺麗とそれは関係ないだろ。」
眉間に皺を寄せた彩葉。
「早く流して」
「あ、ごめん。」
泡を流して、2人で湯船に浸かる。
彩葉の背中が胸に当たって、お腹に腕を回し抱きしめると彩葉が「甘いな」と一言零す。
「甘い?」
「ああ。甘すぎて、本当に自分が極道なのか忘れてしまいそう。」
「······忘れてもいいと思うよ。ねえ、引退する?」
「バカ言うな。今更、他に何も出来ない。」
そういった声が少し悲しそうだった。
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