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第170話 冴島side
彩葉が仕事に行ってから、余計に考えてしまう。
今の仕事を辞めて、新しい何かを始めて欲しいって。
でもそれはただの俺の我儘で、仕事を辞めることも新しい何かを始めることも、彩葉の負担になる。
「別に何も始めなくてもいいんだけど······」
今まで散々苦労してきたんだ。心も体も力を消費してしまっているんだから、何もしなくてもいい。長い休みを貰ったつもりで、休んでくれたらいい。
それを彩葉に提案した所で、きっと受け入れてはくれない。
一緒に住みたいって事もあるし、純粋にただ彩葉が怪我をしないかが不安で仕方がない時がある。
誰かに傷つけられでもしたら許せない気持ちでいっぱいになって、頭がおかしくなりそうだ。
どうすればいいんだろう。
誰かにこの気持ちを相談したい。
「立岡······は、無理かなぁ。」
あいつに素直に気持ちを吐露できるかと聞かれると、絶対に無理。
「······志乃かなぁ。」
志乃に相談するのはおかしいかもしれないけど、他に相手がいない。
携帯を手に取って電話をかけた。暫くすると掠れた声で「誰だ」って電話に出た。誰だじゃなくて、ちゃんと画面を見て出て欲しい。
「冴島ですけど」
「······ああ、何だ。」
声の掠れ具合からして、どうやら今起きたようだ。
彩葉はもう仕事に行ったっていうのに。
「相談したいことがある。お前の時間ちょうだい。」
「······今日か?それなら······昼から家に来い。」
「梓君は?」
「今日は速水と夏目と出かけるんだと。」
なら組に幹部は彩葉と相馬君しか居ないのか。
今日の彩葉は忙しいんだろうな。
「お前は本家の方に行かなくていいのか?」
「何かあれば行くけど、親父がいるからな。」
「そう。あ、昼御飯作ってよ。」
「はあ?······まあ、いいけど。」
「やったー!じゃあ12時頃に行くね。」
電話を切って出かける準備をする。
まだまだ時間はある。
相談するのは少し緊張するけど、昼御飯のこともあって、楽しみでもあった。
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