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第171話

言っていた通り、お昼頃に志乃の家に行くと、もう既に美味しそうな匂いがしていてワクワクした。今日の目的は昼御飯じゃないけど、それくらい楽しみ。 「いい匂いがする!」 「ああ、お前が作れって言うからな。」 「志乃のご飯は美味しいからねぇ。」 「早く上がれば」 部屋に上がらせてもらって、ここに来る前に買ってきたケーキを志乃に渡す。 「梓君と食べてね。」 「ありがとう」 少し表情を緩めた志乃。梓君のケーキを食べる顔でも想像したのだろうか。 「で、相談って何。」 「あー······うん。」 ビーフシチューにピラフにアヒージョにサラダっていう豪華な昼御飯を平らげて、お腹いっぱいだぁと満足していたら、本題を切り出された。まあそりゃあそうか。俺はその話をしに来たんだから。 「彩葉のこと」 「······また喧嘩か?お前らいい歳こいて仲直りの仕方も知らないのか?」 「違うよ!喧嘩はしてない。ただ······こんな話を志乃にするのもどうかと思うんだけど······。」 そうして彩葉の事を伝えた。 同居をしたいってことも、そうしたら危険だってことも。その他にも彩葉が危ないことをするのには良く思ってなくて、だから彩葉には今の仕事を辞めて、新しいことを始めてほしいって。 「ふーん······。なら、辞めさせるか?」 「え?」 「俺としちゃ神崎は出来るやつだから失うのは惜しいけど、神崎がそれで納得して新しいことを始めるって言うなら、神崎の人生だからな、俺や親父がそれを止める権利は無い。」 「でも······そんなにすんなりといけるものじゃないでしょ?」 「そうだな。それにそもそも神崎が納得するかどうかだろ。」 それはそうだと頷いた。でも志乃がそうやってすんなり話を進めてくれるとは思っていなかったから驚きが隠せない。 「彩葉がもしいなくなったら、幹部は3人になるんでしょ?」 「ああ。だから神崎が辞める前に今の幹部補佐に仕事を覚えさせないとな。」 「······ごめんね、志乃も忙しいのに。」 「いや、考えてはいたんだ。神崎は散々な目に遭って疲れてるだろうしな。精神的にやられたら、わざと仕事でヘマして死のうとするやつだっている。その前に止められるならそれが1番だ。」 志乃は優しいから、自分の部下の事も気にかけてくれている。それが嬉しくてたまらなかった。 「志乃は本当、良い奴だね。」 「何だ急に。何も出ねえぞ」 志乃はそう言って小さく笑った。

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