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第175話
「俺の仕事の話を、どうして若にしたんだ。どうせ辞めさせて新しい事をって言ったんだろ!?」
つい怒り口調になってしまって、立ち上がり、テーブルを強く叩いた。驚いた秀が肩を揺らす。
「それはお前がただ満足したいだけだろ!俺は今のままで十分なんだ!」
「違っ、俺は······俺は彩葉が危ない目に遭うんじゃないかって不安で······っ!」
「不安?今更か?それなら何で俺と一緒にいる。全部わかってただろ?俺がどんな職業で何をしてるのかも。」
そう言って詰め寄ると、秀は唇を噛んで強い視線を向けてくる。
「わかってた!でも仕方が無いだろ!やっと自分の恋人になった大切な人を、そのまま、傷つくかもしれない場所に置いておきたいと思う!?」
怒鳴り返してきた秀は、今度は力なく俯いた。
「そんなの無理だ······。俺は、彩葉が居なくなったら、生きていけないよ。」
「······もともと、俺は居なかった。仮に俺が死んだなら、元の生活に戻ればいいだけだ。」
つい、冷たい言葉で返してしまう。途端、秀がグラッと揺れて、かと思えば凄い力で床に押し倒された。馬乗りになられて、身動きが取れなくなる。
「ねえ、彩葉は巫山戯てる?もしかしてまだ寝てるの?あはは、もう夜だよ?そろそろ起きないと。」
「······秀?」
「起きてるなら耳かっぽじってよく聞け。」
胸倉を掴まれ、顔が近づいてきた。そこに表情は無くて、背中がゾッとする。
何だこれ、こんな秀は見たことない。
「俺ね、自分を蔑ろにするやつが嫌いなんだ。分かるかな、それは今の彩葉の事。」
「······お、い退け······」
「退け?いやいや、俺が話してるんだから聞けよ。」
普段は静かで温厚そうに見える奴ほどやばいっていうのは知っていたけど、こんなに圧が酷いのか。
「俺はね、仮にでも彩葉に死なれたくないんだよ。理由はわかるよね?さっきも言ったけど、それだけ彩葉が大切なんだ。」
「······でも、仕事だから······」
「うん、だから、その仕事を辞めて別の事をしようって、提案してるんだ。」
今度は顔に笑顔を貼り付ける。
それが異様に怖かった。
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