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第176話

「べ、別の事って、そんな簡単に見つからないだろ······」 「すぐに見つけろなんて言ってないだろ?」 「······生活費が無くなる」 「俺もある程度は稼いでるし、貯金もある。」 言い訳が無くなっていく。悔しくて唇を噛むと、優しくキスをされた。そのまま頬を撫でられ、少し雰囲気が柔らかくなる。 「志乃にその事を話した。そしたら、彩葉の人生だから志乃や親父さんが止める権利はないって。」 「············」 「俺もそうなんだろうけど、正直不安で見てられないんだ。」 俺の胸にトンと額を当てた秀。そっと髪を撫でると、視線を上げて俺と目を合わせる。 「······だめ、かな?」 「······今すぐには無理だ。ちゃんと、ケジメはつけないといけないから。」 「うん」 「でも······、お前の言う通りにはしたい······。」 不安にさせることは申し訳ないとは思うし、それに······正直、俺だって秀と一緒に暮らしたいと思っていた。 そんなこと、今はまだ言えないけど。 「ありがとう、彩葉。」 「······うん。」 本当は俺がそう言うべきなんだろうな。 年上なのに、情けない。 「秀、退いて。」 「あっ、ごめん!頭打たなかった!?」 「打ってない。」 上から退いてくれた秀は、そのまま手を出してきて、遠慮なく手を掴むとグッと引いて起こしてくれた。 「本当に嫌なら、俺の言葉は忘れてもらってかまわないから。」 「······わかった。」 秀は優しいから、ちゃんと逃げ道を作ってくれる。 今はまだ、それに甘えるのもいいんじゃないかって、心がグラグラと揺れた。

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