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第177話

*** ああ、嫌だ。 仕事に行くのが億劫だ。 若に自分から伝えないといけないし、そうすれば俺の空けた席に座る奴に仕事を覚えさせないといけない。それも面倒臭い。 「彩葉」 「何」 朝食を済ませ、行きたくないとテーブルの席に着いたまま俯いていると、秀が近づいてきた。 「時間大丈夫?いつもならもう出てる時間だけど······」 「······もう行く」 重い腰を上げて玄関に向かい、ゆっくりと家を出る。 「頑張ってる彩葉に言うのはおかしいけど、無理しない程度に頑張ってね。」 「······うん。······なあ、1回だけキスして。」 恥ずかしいけど、そうお願いすると秀は顔を赤くして、嬉しそうに微笑んでキスをしてくれる。 「いってらっしゃい。」 「いってきます。」 少しはやる気が出た。 いや、本当ならやる気がメラメラと燃えているって言うのがいいんだろうけど。 でも俺はどうしたってそこまでやる気のあるタイプじゃないし。 車に乗り、本家に着いて幹部室に行くとそこには何故か若と幹部補佐を務める西谷(にしのや)がいて、背中がすっと伸びた。 「おはようございます。」 「おはよう」 「おはようございます!神崎さん!」 犬みたいな西谷は、あるはずのない尻尾をブンブンと振って近づいてくる。 「今日から神崎さんにお世話になります!よろしくお願いします!」 「······は?」 「冴島と話してな、俺もそろそろお前を引退させねえとって思ったから、お前が引退することで空く席に、次に座る西谷の世話係をしばらくしてもらう。」 「······え、お、俺、あの······」 どういうことか分からない。そしてどうすればいいのかも分からず、吃ってしまった。 「お前は今まで頑張りすぎたんだ。そろそろ休め。」 「······あ、あの、俺······そんなに、使えなかったですか······?」 不安になる。こうしてスイスイと話が進んでしまうと。そこまで俺は必要ではなかったんだと言われているみたいで。 つい、不安を口にすると若は目を見開いた。 「使えない?お前が?」 「······いえ、なんでもないです。変な事言ってすみません。」 悔しいけど、受け入れてしまえば楽だ。 ぐっと溢れそうな気持ちを抑え込んで、西谷を見る。 「引継ぐこと、いっぱいある。ちゃんと教えるつもりだから、全部覚えろ。」 「はい!よろしくお願いします!!」 大丈夫、気持ちを抑えるのは得意な方だ。 バレないように小さく息を吐き、心を落ち着かせた。

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