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第179話 冴島side
夜、帰ってきた彩葉は酷く憔悴していた。
その理由を聞こうにも、先に風呂に入ってしまったから無理で。
しばらく待っていると風呂から上がってきた彩葉は、髪を濡らしたままソファーに座り「なあ」と声をかけてくる。
「うん、おかえり。」
「······髪乾かして」
「いいよ」
今日は相当疲れたのだろうか。
こうしてあまり言葉を交わさない時は大抵、彩葉の心が疲れてる時だ。
「何があったの?」
「······俺は必要ないみたいだ。」
「え?」
「今日本家に行ったら、もう既に若が俺が辞める話を進めてた。」
成程。それで必要が無いと。
彩葉の柔らかい髪をタオルで拭いて、ドライヤーの温風を当てる。
「そりゃあ俺は使えなかったかもしれないけど、少しくらい引き止めて欲しかった。」
「うん」
「そっちの方がすんなり受け入れられたのに。」
こういう時は聞いてあげるのが1番かな。
髪を乾かし終えて、見上げてきた彩葉にキスをする。
「疲れたね。」
「······疲れた」
そう言ってふらり立ち上がり、寝室に行った彩葉。なんだか嫌な予感がして部屋に行くと自分を傷つけようとしてる彩葉の姿が目に写って、刃物を持った右手にそっと手を重ねる。
「彩葉、痛いことはしないで。」
「······抱きしめて。」
「うん、じゃあまずはこの手、離そうね。」
刃物を持った手を離した彩葉は、俺に抱きしめられてそっともたれ掛かってくる。
「俺が駄目なのか。必要とされるほど動けなかったのか。」
「俺は違うと思うよ。志乃は逆に、彩葉が負い目を感じないように先に行動したんだと思う。」
「······それでも、止めてほしかった。」
「うーん······。よし、まずは休もう。彩葉、全部忘れて1度眠って、スッキリした頭で考えよう。」
彩葉の腕が背中に回って、ベッドにそのまま倒れ込む。キスをして、頬を撫でると「もっと触って」と言われて少しドキッとした。
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