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第182話

お風呂は明日の朝に入ることになって、裸のまま彩葉にくっつかれているわけだけど、そんなこと珍しくて未だに心臓がドキドキとうるさく音を立てている。 「い、彩葉、服着ない?」 「着ない」 彩葉の手が俺の手を取って、突然指先にキスされる。俺を煽っているのか、そのまま口元を歪めてニヤッと笑うから、もう一度何も考えられないくらいにしてやろうか、なんて思った。 「彩葉、お願い。」 「何で。温かいから嫌だ」 指を絡められ、そのまま腕枕をさせられる。 「秀の家族はどんなのだ」 「俺の?······うーん、普通だと思うけどな。放任主義の母さんと心配性の父さん。俺のしたいことをさせてくれたよ。」 「したいことをさせてくれるのは良いな。俺も······もし母さんが生きてたら、そうなってたのかな。」 彩葉に家族の話はしないようにしていた。けれど聞かれてしまったら答える他ない。素直に話せば、彩葉自身の母親の話をするから、また不安定にならないか少し心配になる。 「彩葉のお母さんは優しかっただろうから、きっとそうじゃないかな。」 「ああ。多分、俺の意見を一番に聞いてくれるんだと思う。」 想像しているのか、彩葉の表情が優しい。ついついそんな彩葉にキスをして、抱きしめる。 「彩葉がそうだから、彩葉のお母さんもきっとそうだよ。」 「うん」 俺より歳上なはずなのに脆い。だからこんなに綺麗に見えるのだろうか。 崩れないように支えてあげたい。これからは眞宮組という場所を卒業して、本当に俺のものになるのだから。 「明日から、新しい生活の準備していこうね。」 「そうだな。」 きっと穏やかな日常がすぐそこで待っている。

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